もっと知りたい、時計の話 <Vol. 4>

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

前回Vol.3では、“腕の上で世界旅行が楽しめる”ワールドタイムウォッチの第1 回目として、ロマンティックな魅力や歴史を紹介しました。今回は、日新堂が取り扱っている時計ブランドの、おすすめのワールドタイムウォッチの世界とその魅力をご紹介します。

●機能も美しさも最高峰の美術工芸品


時針と分針による現在地の時刻に加えて24時間で文字盤を1周する「24時間表示ディスク」と「都市名ディスク」。この2つを文字盤に備え、世界の24タイムゾーンにある主要都市の時刻がひと目でわかり、ディスクに書かれた24の数字の下地を、朝の6時から夕方18時までは昼を表す白、18時から朝の6時までは夜を表す黒にすることで、その時刻が昼か夜かもわかる。そのうえ都市名ディスクの都市名は、都市間の時差を反映して書かれているので、GMTモデルのように自分で「都市間の時差を調べて設定する」必要もないのです。

1930年代、スイス・ジュネーブで活躍していた天才時計師ルイ・コティエが開発したと言われるこのワールドタイムウォッチの基本デザインとメカニズム。これを1937年に腕時計に初めて採用し、さらに発展させてきたのが、パテック フィリップです。パテック フィリップは最初のモデル「Ref.515 HU」を製品化してからこの80年あまりの間に、メカニズムを何度も改良して、より使いやすいものにしてきました。

時計愛好家の間では、1999年にパテック フィリップが特許を取得した機構の搭載で「パテック フィリップのルイ・コティエ式ワールドタイム機構は完成した」と評価されています。この時に、ケース10時位置にプッシュボタンが搭載されました。


パテック フィリップのワールドタイムは、マイクロローター式の超薄型自動巻きムーブメントの名作「キャリバー 240 HU」の搭載で、ケース厚が非常に薄く着けやすいのも大きな魅力のひとつ。(写真は5230Pモデル)

このプッシュボタンを押して都市名ディスクを回転させ、いま居る場所の都市名を12時位置に合わせる。それからリュウズを引いて、時針と分針を現在時刻に合わせる。たとえば、あなたが東京に居るなら、プッシュボタンで都市名ディスクの「TOKYO」を12時位置に合わせる。それからリュウズを1段引いて、時針と分針を、今の東京の現在時刻に合わせます。何とこれだけで、この時計の設定は完了です。

たとえば「エッフェル塔のある、あのパリの今の時刻が知りたい」と思ったら、プッシュボタンを押して都市名ディスクを動かし「PARIS」という都市名を12時位置に持ってくるだけ。これで時針、24時間ディスクが自動的に動いて、時分針がパリの現在時刻を12時間制で表示してくれます。

プッシュボタンを押すだけで、世界の24のタイムゾーンの現在時刻を、時分針でこの時計は表示してくれるのです。そして12時間制で表示されるその現在時刻が24時間制では何時になるのかも、24時間ディスクの12時位置の目盛りを読めば知ることができます。つまり、ボタンを押すだけで、文字盤の上で世界の時刻を確認することができるのです。

この洗練されたワールドタイム機構に加えて、パテック フィリップのワールドタイムにはもうひとつ、伝統工芸をどこよりも大切にする同社の特別な魅力があります。

それが美しい文字盤の造りと仕上げです。文字盤中央に、職人の手作業によるギョシュ(彫刻)加工でサーキュラー・パターンを施したモデル。最高峰の職人による希少なクロワゾネ本七宝で、文字盤の中央に世界の地図を美しく描いたモデル。この芸術的な装飾だけでも手にする価値があり、時計の世界で誰もが認める、至高の美術工芸品といえるでしょう。



PATEK PHILIPPE/パテック フィリップ

ワールドタイム 5230P(左)

プラチナケースにブルーの文字盤、ブルーのカーフスキンストラップを組み合わせた2022年の新作モデル。文字盤中央には手仕上げギョシュ装飾の新しいサーキュラー・パターンを採用。プラチナケースのアイコンであるダイヤモンドが、ケース下側、ラグとラグの中央にセッティングされている。
ケース経38.5㎜、ケース厚10.23㎜、プラチナケース、カーフスキンストラップ、自動巻き、パワーリザーブ最小48時間、3気圧防水。896万5000円

ワールドタイム 5231(中央)

 エナメル職人が手作業で、幾度も幾度も高温で焼成して仕上げる文字盤中央のクロワゾネ本七宝のモチーフに、日本を含む東南アジアとオセアニアの地図を採用した、日本のわたしたちにとってはうれしい2022年の新作モデル。
ケース径38.5㎜、ケース厚10.23㎜、ホワイトゴールドケース、アリゲーターストラップ、自動巻き、パワーリザーブ最小48時間、3気圧防水。1120万9000円

ワールドタイム 7130(右)

 女性向けに開発され、2011年に登場した7130モデルの新作は、メンズよりひと回り小さなローズゴールドケースにトレンドカラーのオリーブグリーンの文字盤とカーフスキンストラップの組み合わせ。文字盤センターのギョシュ装飾は古風な籠の網目をハンドクラフトで再現したもの。ベゼルには62個(約0.85カラット)のダイヤモンドをセッティング。
ケース径36㎜、ケース厚8.83㎜、ローズゴールドケース、カーフスキンストラップ、自動巻き、パワーリザーブ最小48時間、3気圧防水。732万6000円

●世界35のタイムゾーンとサマータイムに対応


2000年にパテック フィリップが完成させた「ルイ・コティエ式」ワールドタイム機構。しかし、時計技術の進化は止まりません。その後も、このモデルを超える機能を備えた画期的なワールドタイムウォッチが、最高峰の時計ブランドからいくつか登場しています。

そのひとつが1806年から1918年まで、現在のドイツ・ザクセン州に存在した旧・ザクセン王国。その宮廷時計師の伝統を引き継ぐ時計ブランドのひとつ「グラスヒュッテ・オリジナル」が2012年にコンプリケーションモデルに搭載し、2015年にワールドタイムウォッチとして発表・発売を開始した「セネタ・コスモポリト」です。

GMTウォッチやワールドタイムウォッチは「イギリス・ロンドンのグリニッジ天文台にある経度0の経線を基準に、世界を経度15度ごとに、時差1時間ごとに24のタイムゾーンに区切る」という世界時間の基本的な考え方に基づいて作られています。

ただし、自国の時刻をインドのデリーやアフガニスタンのカブール、イランのテヘラン、オーストラリアのダーヴィンのように30分、ネパールのカトマンズのように45分ずらして、24のタイムゾーンの時刻からさらに細かく定義している国もあります。また、スイスのように、夏は冬よりも時刻を1時間前倒しにする「サマータイム」を導入している国もあります。


インドやネパールの時差に注目。1/2や3/4という時差表記に注目 「元データ:US Central Intelligence Agency .TimeZonesBoy 2012年11月5日, 作成をトリミング」

ルイ・コティエ式ではこうした30分、45分の時差、さらにサマータイムには対応できません。

グラスヒュッテ・オリジナルの「セネタ・コスモポリト」は、この30分、15分の時差、さらにサマータイムを独自のメカニズムで設定・表示できるようにした画期的なワールドタイムウォッチです。

12時位置にあるインダイヤルの時針、分針とその6時位置にあるインジケーターが、ホームタイムを表示。このインダイヤルの12時位置にはこの時計のパワーリザーブ表示が搭載されています。

そしてこの時計のハイライトが、時針分針、そしスモールセコンドによるローカルタイム表示の、文字盤8時位置のリュウズと2つの窓によるタイムゾーンの設定機構です。


サマータイムを採用しているエリアでその時期に設定する場合は上のDSTの窓を使います。下が通常のタイムゾーンセッティングに使う空港名のセッティング窓です。

ローカルタイム表示のタイムゾーン設定は、24の主要都市名ではなくて、世界で使われている35のタイムゾーンに対応したIATAコード(国際航空運送協会が定めた英字3文字の空港コード)で行います。8時位置のリュウズを使ってこの都市名を上下2つならんだ下側の「STD」の窓に合わせることで、ローカルタイムのタイムゾーンを正確に設定できます。

またサマータイムを採用している国で、サマータイムを適用している時期は、「STD」の窓ではなく「DST−デイライト・セービング・タイム=サマータイム」の窓を使って、IATAコードを使ってタイムゾーンを設定することで、ローカルタイムの表示をサマータイムに設定することができます。

そして右側2時位置のリュウズでは、そのまま回すと時計を動かすゼンマイの巻き上げが、一段引くとホームタイムとローカルタイムを連動させての時刻合わせを行うことができます。一方、4時位置のリュウズでは、一段引くことで、ローカルタイムを表示する時針、分針、さらに9時位置の昼夜表示、4時位置のパノラマデイト(ビッグデイト)表示だけを動かすことができます。

このモデルは、現代のワールドタイムウォッチの中でも最先端。30分、45分の時差のある場所に旅する方に、いまいちばんオススメしたい1本です。


GLASHÜTTE ORIGINAL/グラスヒュッテ・オリジナル

セネタ・コスモポリト

 24のタイムゾーンに加えて、1/2時間、3/4時間という、現在世界で使われている35のタイムゾーンに対応。8時位置のリュウズで、IATAコードによるタイムゾーン設定が行え、15分単位までの時差も反映できる画期的なワールドタイムモデル。
ケース径44㎜、ケース厚14㎜、SSケース、アリゲーターストラップ、自動巻き、パワーリザーブ約72時間、5気圧防水。267万3000円

※記載の価格は、2022年8月1日現在のものです。