vol.10 銀座の手土産

風格漂う庶民菓子、空也くうやの最中

日新堂の近くにある名店や街の魅力をお伝えしたい、そんな想いから生まれた『日新堂マガジン』。喜ばれる手土産やコーヒーのおいしいカフェ、そして街の歴史やちょっとしたトリビアまで、日新堂のお客さまが愉しめる街案内をお届けいたします。
第10回目は、手土産菓子といえば名が挙がる銀座の菓子屋をご案内します。










創業130余年、文豪や歌舞伎役者が愛した空也

銀座の手土産といえば、その名が挙がる「空也の最中」。銀座は並木通りの小さな店に、名物菓子を求めて多くひとが訪れます。最中をはじめ5、6種類の上生菓子を商う空也は、明治17(1884)年に上野池之端で開業しました。明治のご一新で、それまでの江戸城への畳商いを廃業することとなった空也の初代。趣味人でもあった初代は、踊り念仏「関東空也衆」のひとりであり、仲間である榮太樓總本鋪店主の力添えで新たに菓子屋をはじめます。踊り念仏の開祖・空也上人から屋号をいただき商いに精を出したところ、その味が評判となり夏目漱石や林芙美子ら文豪、歌舞伎役者などからも愛される店に。夏目漱石の小説『吾輩は猫である』にも、空也の菓子が描かれています。昭和24(1949)年に戦災で銀座へと移ってからは、この地で暖簾を守り続けています。



愛らしいかたちは、踊り念仏にはかかせない瓢箪をかたどったもの。ふたくちほどで食べ切れる品のよい大きさがいい。最近は予約で売り切れることはないが、確実に買い求めるにはご予約を。ひと月前からの予約も受け付けている。日持ちは一週間程度。空也最中(10個)/1,200円(*化粧箱代を含む)









店舗ビルに製造フロアがあり、餡職人が銅鍋で餡づくり。銀座のビルでは毎日あんこが炊かれている。













焦がし皮と瑞々しい餡が絶妙に調和する最中

空也の最中は、焦がし皮が持ち味。焼きを強めにした皮からは、ふんわりと香ばしさがひろがります。友人の九代目・團十郎が最中を火鉢でさっと炙ったことに着想をえた初代が、“焦がし皮”をはじめたそう。皮に挟むのは、さわやかな甘味のしっとりしたつぶし餡。十勝産の減農薬栽培小豆とざらめ糖をつかって、毎日のように職人が餡を炊き上げています。香ばしい皮と瑞々しい餡が絶妙に調和した空也の最中は、ついつい「もうひとつ」と手が伸びてしまうおいしさ。保存料や添加物は一切使わず、誰もが安心して食べられる菓子を追求しています。 今日作った菓子を今日売り切るだけと、いまでもオンライン販売や地方発送はせず、昔のままに店だけで菓子を販売。お支払いも現金のみです。ちょっぴり不便かもしれませんが、菓子づくり以外の手間や費用をかけないことは、驚くほど良心的な価格にも表れています。コロナ下で変化に揺れる世の中にあって、変わらないことを貫く空也の姿勢は、誰に渡しても恥ずかしくない風格を菓子に与えているのかもしれません。



看板菓子最中のほかに、練切、羊羹、饅頭、など季節の菓子を手掛けている。いい材料をつかい丁寧につくればおいしいものができる、その言葉を信条に日々菓子作りを続ける。









水引暖簾は、画家・梅原龍三郎の揮毫のもの。また店内には、作家・野上弥生子が揮毫した看板、季節の室礼、創業時から受け継がれてきた手水鉢や灯篭が飾られている。みるべき愉しみが多い空也。









掲載情報は2021年10月のものとなります。価格はすべて税込。

■DATA■
空也
住所   東京都中央区銀座6-7-19
電話番号 03-3571-3304
営業時間 10:00~17:00(土曜16時閉店)
休日   日曜・祝日

最中や菓子を確実に購入するには電話にてご予約を。支払いは現金のみ。