もっと知りたい時計の話 Vol.38

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

あなたは「最初に腕に着けた時計」を覚えていますか? いまのこどもたちが、最初に腕に着けた時計は、保育園や幼稚園の工作遊びで作った「紙の時計」だと思います。こどもを保育園に迎えに行ったとき、小さな手首にテープで留めていた、あの時計です。

なぜ保育園や幼稚園で「紙の時計」を作って遊ぶのでしょうか。実はあの工作は、小さなこどもに「時間の感覚」を身につけてもらうという「学び」の一環。小さなこどもの「時間の感覚」は、おとなとはぜんぜん違うもの。こどもたちは保育園や幼稚園の時計のある部屋で毎日過ごす中で、時間の感覚や時計の読み方を少しずつ覚えていくのです。

おとなは時計に基づいて、時間を時計で測る「絶対的な量」として捉えています。でも「時間学」の研究によれば、小さなこどもは時間を「量」ではなく、「出来事の数」で数えて、そこから「時間の長さ」を推測しているそう。だから、時計に基づいた時間感覚を持つ大人の思い通りには動いてくれません。おとなが「次があるから、早くして」とか「あと5分で終わらせてね」と言っても、なぜ早くしなければいけないのか、5分という時間がどのくらいの長さなのか、わかっていません。だからこうした言葉は小さなこどもにとっては「ただ怒られている」としか思えない。だから「怒ってもムダ」なのです。

そんなこどもが「あと5分」の5分間という長さがわかる、つまり「おとなに近い時間感覚」を身に付け始めるのは、発達心理学の研究によれば4歳から5歳以降、保育園や幼稚園の年中クラスから年長クラスになってから。そして「おとなとほぼ同じ時間感覚」が身に付くのは、小学校に入学して「時計を基準にした生活」を毎日するようになってから。それも9歳から10歳、つまり3年生から4年生になる頃だそうです。


そんな、時間の感覚を身に付けはじめたこどもたちに、保育園や幼稚園で「時間の感覚」を身に付けてもらう目的で行っている遊びがあります。それが「時間ぴったりゲーム」。教室にある時計の秒針が12の位置に来たら「用意、ドン」と、みんなでいっせいに目を閉じて、ひとりひとり「1分間が経ったな」と思ったら、目を開けたり手を挙げたりして先生に知らせるというゲームです。そして、このゲームをひとつのきっかけに、こどもたちはだんだん、おとなに近い「時間の感覚」を身に付けていくのです。

この「時間ぴったりゲーム」は、時計さえあればいつでもどこでもできる、簡単でとても面白いゲームです。お休みの日に、こどもと一緒にやってみても、またおとながひとりでやっても、おとな同士でやっても楽しいもの。大人数でやると、意外に盛り上がりますから、パーティのゲームとしてもおすすめです。とにかく、自分の「時間感覚のズレ」が、数字ではっきりわかるのが新鮮です。


おとながこのゲームをする場合は「10秒」とか「20秒」とか、短い時間で行うのがおすすめ。ひとりでやるときは、ストップウォッチやクロノグラフ、ストップウォッチモードにした時計を手元に用意して、目を閉じてスタートボタンを押して計測をスタート。その時間が経ったと思ったら、ストップボタンを押し、目を開けて文字盤を見る。実際にやってみると、意外な結果にびっくりする人が多いはず。パーティなど大人数でやるときは、だれかひとりが時間の計測と順位を決める審判の役割をすると良いでしょう。

ところで、こうした時間感覚がビックリするほど正確なのが、決められた時間内にニュース原稿を読まなければならないテレビ局やラジオ局のアナウンサーたち。これは入社すると必ず受けなければならない徹底したアナウンスのトレーニングの賜物です。ベテランのアナウンサーは、自分のトークがどのくらいのペースで、この原稿ならどのくらいの時間で読めるのか。時間内に収めるためにはどのくらい早めに読めばいいのか、体感として身に付いているので、その場ですぐに対応することができるのです。


また同様に時間感覚がとても正確なのが、スタジオなどで活躍するプロのミュージシャンたち。楽譜には「BPM=Beat Per Minute」という数字で、曲を演奏するときのテンポが記されています。これは「1分間に四分音符が何個入るか」を示すもので、「♩=120」という表記なら1分間に120拍、つまり1拍=0.5秒というスピードで演奏しなさいということ。プロのミュージシャンはこのテンポがアナウンサー同様、体感として身に付けているのです。

今回紹介した「時間ぴったりゲーム」は、自分の「時間の感覚」を知ることができる、その感覚を磨くことができるばかりでなく、リラックスしたいときにも役に立ちます。目を閉じてじっくり時間を数えてみるのは、心理学の世界でも認められた「心を落ち着かせる方法」のひとつ。お休みのとき、やってみてはいかがでしょうか。