もっと知りたい時計の話 Vol.31

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

あなたは映画やドラマがお好きですか? またその中で登場人物が着けている腕時計が気になってどの時計ブランドの何というモデルか調べたり、購入されたりしたことがありますか? 

映画やドラマの中で登場人物が身に着けるアイテムの中でも、腕時計は特別なアイテム。ストーリーの展開上、大事な役割を果たしたり、その世界を象徴するアイテムとして使われたりします。登場人物が着けている腕時計のタイプで、この物語の世界がいつのどんな時代なのか。その人物がどんな地位やパーソナリティーなのかを視聴者に伝えることができます。また登場人物の目線で着けている腕時計の文字盤や秒針をクローズアップにすることで、物語の中の時間の経過や、そのシーンの緊迫度を視聴者にさりげなく伝えることもできます。

さらにこうした腕時計の中には「ただの時計」ではなくて、特別な機能が秘められている、つまり一種の“秘密兵器”として活躍するものもあります。タイムマシーンになったり、ピンチを脱する武器になったり、リモコン機能が搭載されていて、主人公が使うクルマや飛行機などを呼び出したり。もちろんその場合は、あくまで「物語の中の設定では」という話です。

でも、その映画やドラマ、登場人物を演じた俳優さんのファンにとっては、その腕時計を着けることができれば、一瞬でもその世界に行ったような、自分がその役になったような、その俳優さんとお近づきになったような、そんな気分になれるのです。

時計ブランドの中には、昔から映画やテレビドラマとのコラボレーションを積極的に行ってきたところがあります。制作者からのリクエストに応えて小道具として出演者のために腕時計を提供する。さらに、映画の設定に合わせて特別な腕時計や腕時計型の小道具をデザインして製作し提供する。こうしたケースは今では珍しくありません。そして、ファンの中にはこのことをご存知で、その腕時計を購入して愛用されている方もおられます。


映画「メイ・イン・ブラック」でMIBエージェントが着用したハミルトンの「ベンチュラ」。こちらは購入可能です。

映画ファンにとって、そんな「映画の中の腕時計」としてもっとも印象深いもののひとつが、スタンリー・キューブリック監督が人類の進化と未来を描いた傑作SF映画『2001年宇宙の旅(原題:A Space Odyssey)』に登場したブレスレット型の腕時計です。キューブリック監督自身が、アメリカ発祥の時計ブランド「ハミルトン」に「未来の宇宙飛行士が身に付けるのにふさわしい時計」として制作を依頼しデザインされたもの。


ハミルトンが『2001年宇宙の旅』(1968年)のためにデザインした宇宙飛行士の腕時計。残念ながらこのデザインで商品化はされませんでした。

SF小説の巨匠アーサー・C・クラークの短編小説に触発され、キューブリック監督とクラークが脚本を担当したこの作品は1969年製作と半世紀以上も前の映画ですが、「生命、人類の進化とは何か」「科学技術の発達が人類に何をもたらすのか」など、宇宙から人類の文明まで壮大なテーマが含まれていて、その先見性にはただただ驚かされます。チャットGPTのようなAI(人工知能)が普通の人の日常生活にまで深く関わるようになったいまこそ改めて観てほしい、注目して頂きたい作品です。まだご覧になっていない方は、映画配信サービスなどでぜひ一度ご覧になってはいかがでしょう。

この作品以外にもハミルトンの腕時計は、1932年に制作・公開された、マレーネ・ディートリッヒ主演の映画『上海特急』に始まり、1997年から続く『メン・イン・ブラック』3部作や、今年2023年にアメリカで驚異的なヒットを記録した『オッペンハイマー』まで、ハリウッド映画に登場し、またハリウッド映画とコラボレーションしてきました。

これからは、映画館やテレビ、画像配信サービスで映画やドラマを鑑賞するとき、俳優さんたちの腕元の腕時計に注目してはどうでしょう。そしてその腕時計が製品化されていて、もしあなたがその俳優さんや作品のファンで「推し」なら、そのモデルを購入してみてはいかがでしょうか。毎日の時間が今より楽しく充実したものになると思います。

冒頭の時計は、2023年6月に日本でも公開された、ジョージ・ルーカス制作総指揮、ジェームズ・マンゴールド監督の「インディ・ジョーンズ」シリーズ最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』。主演のハリソン・フォードが着用したのが1940年代に誕生したこの「ボルトン」。こちらも購入が可能です。