もっと知りたい時計の話Vol.28

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

新型コロナウイルス危機も一段落して、いつもの夏休みがようやく戻ってきました。すでに国内外の観光地や、海や山のリゾートでお過ごしの方、これからお出かけ予定の方も多いのではないでしょうか。


そこで、海はもちろん山のリゾートにも着けていくのにぴったりの「夏の時計」といえば、普通の時計よりも防水性の高いスポーツウォッチ。

そして、海水浴やマリンスポーツを存分に楽しむなら、やはりダイバーズウォッチがおすすめです。

海好きでマリンスポーツ好きの方に特におすすめしたいのが、時計の中でもいちばん防水性の高い、エアタンクとレギュレーター、スキューバダイビングのような潜水にも使える、ダイバーのために作られたダイバーズウォッチ(ダイバーズ)です。

では、スポーツウォッチとダイバーズウォッチの防水性は具体的に、何がどのくらい違うのでしょうか。実はこの「違い」は、製品カタログにもあまり説明されていません。そこで今回はこの「違い」の話です。

まず、スポーツウォッチとダイバーズウォッチでは、防水性の表記が違います。スポーツウォッチの防水性は「10気圧防水(10BAR/10ATM)」や「20気圧防水(20BAR/20ATM)」のような「〇〇気圧」という表記が一般的です。

これに対して、スキューバダイビングにも使えるダイバーズウォッチの防水性の表記は「〇〇メートル」という表記になっています。そしてカタログスペックには必ず「潜水用200m防水」「空気潜水用200m防水」のように、表記に必ず「潜水用」という言葉が入っています。


国産時計でスキューバダイビングに使えるダイバーズウォッチの防水性の表記はこの時計のように必ず「メートル表記」になっています。またカタログでの防水性表記は「200m 空気潜水用防水」となっています。なお「空気潜水」とはスキューバダイビングのことです。また潜水時間をマーキングできる回転ベゼルも必ず装備されています

これはJIS(日本工業規格)の「潜水用時計」の規格に基づく表記です。ですから、カタログのスペックに「〇〇メートル潜水用防水」「〇〇メートル空気潜水用防水」と表記されているダイバーズウオッチは、最初から長時間、水の中に浸かった状態や水中で使うことを前提にして設計・製造されています。ですので、スキンダイビングはもちろん、スキューバダイビングにも安心して使うことができます。

一方、「〇〇気圧防水」と記されているスポーツウォッチは、普通の時計より防水性は高いものの、スキューバダイビングのような、水中で長時間使うことを前提に設計・製造されていません。そのため「〇〇気圧防水」という表記のスポーツウォッチは水の中に浸かった状態のことで、水中に潜った状態で使うと、壊れてしまう可能性が高いのです。そのため、エアタンクを使わないスキンダイビングが限界だと考えておくべきです。

日本の時計ブランドのスポーツウォッチ、ダイバーズウオッチはJIS規格に基づいて作られていて、この「気圧表記」と「メートル表記」の使い分けがはっきりしています。ですから、カタログスペックにあるこの表記の違いだけで、スキューバダイビングにも使えるダイバーズウオッチかどうかが、ほぼ確実に判断・確認できます。


この時計ではケースバックにも「DIVERS WATCH 200m」という防水性の表記が。またダイバーズウォッチの多くがこの時計のようにケースバックがねじ込み式で、リュウズもねじ込み式でロックできる仕様になっています。

しかし、海外ブランドの多くは、この「防水性の表記」の使い分けは、日本の時計ブランドのように統一されていません。たとえば「〇〇メートル防水(〇〇気圧防水)」あるいは「〇〇気圧防水(〇〇メートル防水)」と、気圧とメートルの両方を表記したものも少なくありません。ですから、この表記の違いだけでは簡単に判断・確認ができません。

海外ブランドの時計がダイバーズウォッチかどうかを確実に判断・確認するためには、カタログや店頭で「ISO(国際標準化機構)」のダイバーズウォッチの規格に適合しているかをしっかりと確認して頂く必要があります。

海外ブランドの場合、スキューバダイビングに使えるダイバーズウォッチは「ISO 6425 Diver’s Watch」という規格に適合しています。水中でも安心して使えるダイバーズウオッチを購入したい方は、ぜひこの規格を満たしているかどうかをお店の方や、カタログのスペックで確認してください。

また、日本のブランド、海外のブランドを問わず、この「防水性の表記」に加えて、スキューバダイビングに使っても大丈夫なダイバーズウォッチか、使ってはいけないただの防水時計かを見分けることができるポイントがもうひとつあります。それが、時間の経過を正確に読み取るための「タイムプリセレクティング装置」。つまり回転ベゼル、それも水中で使っている際に簡単に動いてしまわないように、逆回転を防止する機構がついた逆回転防止ベゼルです。リュウズなどの機構でロックできるインナーベゼルも、このタイムプリセレクティング装置のひとつです。

時計回りの1方向にしか動かせない「ラチェット機構」が組み込まれた逆回転防止ベゼル。潜水を開始する直前に12時位置にある丸いマーカーを分針の位置に合わせることで、ベゼルから経過時間が読み取れる。また暗い水中でも読み取れるように、マーカーや針、時計やベゼルのインデックスに蓄光塗料がセットされている。

スキューバダイビングのライセンスをお持ちの方はよくご存知だと思いますが、ダイビングではタンクのエア切れによる潜水病などのトラブルを防ぐために潜水時間の管理が絶対に欠かせません。ダイバーは自分がいつから潜水を開始して、いま何分が経過しているかを常に知っている必要があります。逆回転防止ベゼルはこのための装置。だからダイバーズウオッチには必ず装備されています。

なお、たとえスキューバダイビングに使えるダイバーズウォッチでも、水中でリュウズを引いて時刻やカレンダーを合わせる操作は避けるべきです。まれに「水中でも操作可能」というモデルがありますが、ほとんどのモデルは水中でのリュウズの操作には対応していません。スキューバダイビングに使えるダイバーズウォッチを購入されても、どうぞこの点はくれぐれもお忘れなく。