もっと知りたい時計の話 Vol.17
さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。
あなたはふだん使っている時計がどのくらい正確か、どのくらいの精度のものなのか、ご存知ですか? また「日差」「月差」「年差」という言葉を聞いたことがありますか? どれも時計の精度を表現するときに使う時計業界の用語です。正確には「平均」という言葉が頭についています。
現在、世界でいちばん普及している時計はクォーツ式。クォーツとは「水晶」のことです。ムーブメントの中に組み込まれた電子回路の中の「水晶振動子」と呼ばれる部品の中にある水晶に電圧をかけると起きる規則正しい振動(一般的には1秒間に32,768Hz=3万2768回)を基準に1秒を定義して、この周期に合わせてモーターで針を動かします。
もちろんエネルギー源は電気で、クォーツ式の腕時計には、銀電池などを定期的に交換するタイプ、文字盤などに内蔵したソーラーセル(太陽電池)が発電した電気を使うソーラータイプ、機械式の自動巻きモデルのように回転錘(ローター)で発電した電気を使う自動巻き発電タイプ、さらに熱発電素子で発電した電気を伝う熱発電タイプもあります。また、セイコーの開発したスプリングドライブのように、針を動かすのは機械式と同じぜんまいの力ですがその動きを水晶振動子と電子回路で制御するので精度はクォーツと同様というタイプもあります。では、クォーツ式の精度はどのくらいでしょうか。
一般的なクォーツ式時計の精度は月差(1か月の誤差)で表され、月差プラスマイナス15秒前後。つまり日差にするとプラスマイナス0.5秒です。さらにクォーツ式の中には、特に精度を追求した年差モデルがあります。その精度は1年間でプラスマイナス5秒、最高精度のものではプラスマイナス1秒です。これは月差にするとそれぞれプラスマイナス約0.417秒、プラスマイナス約0.084秒。日差にしたらプラスマイナス約0.0137秒、プラスマイナス約0.0027秒です。つまり年差1秒モデルは、一般的なクォーツ式の5555倍も精度が高いのです。
THE CITIZEN 年差±1秒「光発電エコ・ドライブ」藍染和紙文字板モデル(左)とそのムーブメント「キャリバー0100」(右)。
そして、さらに精度が高い時計もあります。電波ソーラー腕時計、GPSソーラー腕時計です。どちらもクォーツ式の時計に、電波に乗って送信されてくる世界標準時(正確には協定世界時=UTC)の時刻データを使って時計の時刻を修正する機能が付いています。
電波ソーラー時計が利用するのは、日本の2局を含めて世界の6局から送信されている標準電波。この電波は30〜300kHzという波長の長い「長波」と呼ばれるタイプで、空中よりも地表に沿って伝わるので電波の伝送が安定していて、地下や海中にまで届くという特性があります。ただ世界で6局しかないので、電波が届く=受信できて使えるエリアが限られています。
シチズンの歴代電波時計。左から、世界初の多局受信型電波時計[1993]。光発電エコ・ドライブ(=ソーラー型)電波時計[1996]。世界最小極薄サイズ(発売当時)の女性用のクロスシー エコ・ドライブ電波時計 ハッピーフライト[2016]
一方、GPSソーラー時計が利用するのは、カーナビやスマートフォンも利用している、地上約2万km上空に浮かんでいるGPS衛星から出ている1.2GHz、1.5GHzの極超短波の電波。この電波を3つ以上受信することで、地球上での自分の位置と、その場所の時刻を知ることができます。ビルの中などでは電波がさえぎられて受信できませんが、頭の上が開けた場所なら世界中どこでも、たとえ大海原や砂漠や密林の真ん中でも受信・利用が可能です。
エコ・ドライブGPS衛星電波時計 CITIZEN ATTESA ATC Line ブラックチタンシリーズ CC4055-65E。複数のGPS衛星の電波を受信して、位置情報と時刻情報の両方を取得して現在地の時刻を表示する
なお、「協定世界時」はセシウム原子時計を使って国際度量衡局(BIPM)という国際機関が定義したもの。この時刻は「数十万年に1秒」の誤差しかありません。ただ電波の伝送速度の関係で厳密には、電波ソーラー・GPSソーラーどちらの時計も協定世界時よりはミリ(1000分の1)秒単位、ナノ(10億分の1)秒単位のズレがあります。しかし、時計の表示が秒単位であることを考えれば、電波を受信できているときには、最も正確な時刻を送信する協定世界時との差は事実上ゼロと言っていいでしょう。この正確さから、交通機関の運行に関わる人など時間厳守の公共サービスに関わる人たちから特に絶大な支持を得ています。
では機械式の腕時計の精度はどのくらいでしょうか? 精度の基準として最も知られているのが、スイスクロノメーター検定協会(COSC)がムーブメントの状態でテストを行い認定する、スイス公認(認定)クロノメーターです。このクロノメーター基準に合格するために満たさなければならない平均日差は「マイナス4秒からプラス6秒」です。
一方、一般的な機械式の腕時計の精度は「日差マイナス20秒からプラス15秒」程度。ところが最近は、ロレックスがCOSCのテストに加えて、ムーブメントをケースに入れた状態にして社内で検査・認定する「SUPERLATIVE CHRONOMETER=精度プラスマイナス2秒」や、スイス計量検定局(METAS)が認定しオメガやチューダーに導入モデルがある「マスター クロノメーター=精度ゼロからプラス5秒」など、COSCの基準を超えた精度を持つ機械式も増えています。最近では「ゼロ〜プラス2秒」を謳うモデルも登場しました。
THE CITIZEN メカニカルモデル Caliber 0200 限定モデル NC0206-18E(左)と、搭載される機械式ムーブメントCaliber 0200(右)。精度は日差マイナス3秒〜プラス5秒
機械式、クォーツ式、そして電波受信による時刻修正機能付きのソーラークォーツ式まで、すべてが「より高い精度」を追求してきた過去数百年に及ぶ有名無名の時計師、時計技術者たちの情熱と技術の結晶。どれも日常で使うには充分な優れた精度を持ち、あなたの時を彩ってくれます。
あなたがいま愛用されている腕時計、またあなたがこれから手に入れたい腕時計の時間精度はどのくらいですか?