もっと知りたい時計の話 Vol.12

さまざまな時計とその晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

男性用、女性用を問わず、いまビジネスパーソンがふだん着けている腕時計には、時、分、秒の表示に加えて、文字盤に日付(デイト)表示や日付&曜日(デイデイト)の表示機構が搭載されているものがほとんどです。

この日付表示機構は付加機構の中でもいちばん歴史のある機構です。では、いつ頃から搭載されるようになったのでしょうか? まずはこの機構の歴史を振り返ってみましょう。

日付表示機構自体の歴史は古く、イギリスやフランス、スイスの時計師たちは懐中時計の時代から、日付表示にとどまらず、曜日、さらに月、うるう年、ムーンフェイズ(月相)も表示する永久カレンダー機構まで製作していました。

18世紀後半から19世紀始めに活躍した時計史上最高の天才アブラアン−ルイ・ブレゲが、フランス革命の中で断頭台の犠牲になった悲劇の王妃マリー・アントワネットのために製作を開始して、王妃の死、さらに自身の死から4年後、1827年に弟子が完成させた超複雑懐中時計「No.160 マリー・アントワネット」が日付、 曜日、月をそれぞれ表示するパーペチュアルカレンダー機構を搭載していたことは、時計愛好家の方ならご存知かと思います。

そして腕時計に日付表示機構が初めて搭載されたのは、現在の定説では1915年、スイスのハンマリー(Hammerly)という時計ブランドが開発した2つのモデルだとされています。ひとつは文字盤の12時位置に窓があり、回転するディスクの数字で表示する窓式のもの。そしてもうひとつが、文字盤のいちばん外側に設けられた日付の数字(デイト)を日付表示専用の針で指し示すポインターデイト式のものでした。


日付表示で最も一般的なのが、窓とアラビア数字を組み合わせたこのタイプです。味わい深い銀箔漆文字盤を採用した、シチズン 「CITIZENコレクション NB3020-08A」

その15年後の1930年には、現在のジラール・ペルゴとして知られるミモ(Mimo)が「ミモ・メーター(Mimo Meter)」という名前の、同社が特許を取得した、文字盤3時位置に窓式の日付表示機構を備えたモデルを開発・発売します。

さらに日付表示機構の決定版、3針ウォッチへの日付表示が標準で搭載されるきっかけになったのが、1945年にロレックスが発売したモデルに初搭載され、1953年に「デイトジャスト」という名前になった瞬間(ジャスト=すぐにという意味)日送りタイプの窓式の日付表示機構です。

そしてこの頃、1915年に窓式と同時に発表されたポインターデイト式も窓式と共に多くの腕時計に採用されて普及します。この方式は現在も、特にクラシックなテイストのモデルに好んで使われています。

また、日付表示機構の調整(日付の修正)の方法も進化を遂げます。初期の日付表示機構は、リュウズを時刻修正モードにして時分針を動かし、時針を2周させて1日分送る、この方法しかありませんでした。しかし1950 年代になるとリュウズに日付修正モード(クイックセットモード)」を備えた日付表示機構が開発され、時分針を動かさず、日付だけを送ることができるようになります。

ただ、当初の日付修正モードは、日付を前に送る方向(順方向)のみ操作が可能なもの。しかも、日付表示機構の故障を避けるために、この操作に禁止時間帯(多くは21時〜3時)が設定されていました。ただ現在では、日付を前に送ることも後ろに戻すことも、いつでもできるよう改良されたモデルが増えています。

さらに1956年、ロレックスは3時位置の日付に加えて、12時位置に曜日を表示するもうひとつの窓を備えた「デイデイト」表示機構を搭載したモデルを発売します。さらにこの後に国産時計をはじめ多くの時計ブランドで採用されたのが、3時位置に横長の窓を1つだけ設け、内側に曜日、外側に日付を表示するタイプの日付曜日表示機構です。


現在では、デイデイト(日付曜日)表示を備えた腕時計は希少な存在。1970年代スタイルが特長のこの「オリエント マコ/RN-AA0811E」は2004年から続くロングセラーモデル。

そして1990年代半ば、新たな日付表示機構が登場します。それが「パノラマデイト」「アウトサイズデイト」、一般的には「ラージデイト」とも呼ばれる日付表示機構です。日付の10の位と1の位を別々のディスクを使って表示することで「ラージ」という名前の通り、日付を表示する窓と数字のサイズが従来のものよりひと回り、ふた回りも大きく見やすくなっています。またこの機構は視覚的にも面白く、文字盤を半透明にすることでメカニズムを可視化したモデルもあります。


アニュアル(年次)カレンダー機構を初搭載。その日付表示に、2つのディスクを使い、文字盤4時位置に2桁の大型の数字で日付を表示する「パノラマデイト」機構を採用する「グラスヒュッテ・オリジナル パノマティック カレンダー/1-92-10-01-03-62」(世界150本限定)



機械式時計が「時を知る実用的な道具」であった時代。当時は街中に公共時計も少なく、秒単位まで正確な時刻を知る方法は、電話局の時報ダイヤルの応答音やテレビ、ラジオの時報だけ。この時代、日付や曜日がわかる機構には、今からは考えられない大きな価値がありました。クォーツ時計が開発される以前、時計がまだ精密機械として大切にされていた1970年代以前をご存じの方には、この付加機能の実用的な価値がより一層理解できるかと思います。

スマートフォンの待ち受け画面には、時間と日付と曜日がデフォルトで表示される今の時代、腕時計の日付表示機構や日付&曜日表示機構に求められるのは実用性だけではなく、それを持つ人を楽しませるデザイン性と趣味性です。

あなたはスタンダードな窓式、クラシックなポインターデイト式、そしてラージデイト式、また曜日表示でも、どんなタイプがお好きですか?