もっと知りたい、時計の話 〈Vol.1〉
さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。 まず最初は、海外旅行にぴったりのGMTウォッチのお話から。
海外旅行に出かけるなら、ぜひGMTウォッチを
海外旅行に着けていくのに、いちばんおすすめ、便利な腕時計はどんな時計でしょうか。それはGMTウォッチです。
ではGMTウォッチとはどんな時計でしょうか? それは「今いる場所の時刻と同時に、別のタイムゾーンの時間も同時に分かる時計」です。
あなたがフランスのパリにいるとき、時計の文字盤にはパリの時刻が表示されていると思います。GMTウォッチなら、同時に遠く離れた場所の現在時刻、たとえば東京の時刻が同時に読み取れます。つまり「遠くにある世界の別の場所の時刻もわかる」のがGMTウォッチなのです。
ではこの「GMT」とは何でしょうか? これがわかると世界のことがよくわかります。
それでは、まずはその説明から始めましょう。
●昔、人々はバラバラの時間を使っていた
※12/24時間が併記された「ハミルトン カーキ」の文字盤。「1日が24時間」と最初に定義されたのは紀元前2世紀。提唱したのは古代ギリシャの天文学者ヒッパルコスとされています。
1日は24時間です。ではこの長さは、何を根拠にして決められたのでしょうか。その根拠は「地球が自転する時間」です。
地球は太陽の周りを1年間かけて回っています。これを「公転」と言います。実は「1年間」という時間はもともと、この公転にかかる時間から定義されたものなのです。
そして地球は、太陽を取り巻く周回軌道の上を動いているときに、同時に地軸を中心に自分でも回転しています。これを「自転」つまり地球はコマのように回転しながら、太陽の周りを1年間かけて回っているのです。
昼と夜があるのは、地球が「自転している」から。太陽から地球に当たる光の位置は、時間の経過とともに変わります。そして、太陽からの光が当たっているエリアが昼で、当たっていないエリアが夜なのです。
ところが昔、人はそれぞれの場所で、それぞれの時間で生活していました。今のように、遠くの国の現在時刻を知る必要も、また興味もありませんでした。太陽が地平線から姿を見せて朝が来て、また地平線の向こうに姿を隠して夜が来る。そしてまた朝が来て昼になって夜になる…。人々はこのサイクルに基づいて時刻を設定して、普通に生活していたのです。
たとえば日本では江戸時代まで、1872年に国の暦が太陰太陽暦から太陽暦に変わるまで、「不定時法」という時刻制度を使っていました。これは日の出から日の入りまでの時間を、日の入りから日の出までの時間をそれぞれ6等分して、それぞれを「一刻」とするものでした。しかし、この「一刻」の時間の長さは、季節によって大きく変わっていたのです。
※不定時法での時刻の長さは、常に変化するものでした。「一刻」の長さは季節はもちろん昼と夜でも違いました(出典:日本時計協会のサイトの「和時計の世界」から)
●「世界がひとつに」なって、時刻の統一した定義が必要に
ところが、15世紀に始まった大航海時代を経てヨーロッパと植民地との貿易が盛んになり、「世界がだんだんひとつに」なってくると、状況が変わってきます。そして19世紀から20世紀、船や飛行機が発達して行き来が頻繁に行われるようになると、貿易や旅行のために「世界の時刻を科学的にきちんと定義する」必要が出てきました。
そこで行われたのが、1884年10月1日から11月1日にかけてアメリカのワシントンD.C.で開催された「国際子午線会議」です。この国際会議の正式な議題は「万国共通の経度零度、ならびに時刻計算の基準として用いられるべき子午線の選定」でした。子午線とは「緯度、経度」の経線のことです。
そしてこの会議ではまず、世界の経度を、当時世界No.1の大国・大英帝国イギリスのロンドンにあるグリニッジ天文台の場所を、経度の起点に定義することにしました。つまりグリニッジ天文台の位置を「経度0」とし、ここから世界の経度を定義したのです。
さらに世界の時刻も、このロンドンのグリニッジ天文台を起点に定義することにしました。この経度(子午線)0地点の時刻を、この天文台の名前にちなんで「Greenwich Mean Time(グリニッジ・ミーン・タイム)」、略して「GMT」と呼び、これが世界の時刻を定義する基準の時刻としたのです。この時刻は「グリニッジ標準時」とも呼ばれます。
なお「Mean」とは「平均」という意味です。これは地球が1回自転する時間が正確には「平均すると24時間」なので、この言葉が入っています。
●経度15度ごとに「時差1時間」のタイムゾーンを設定
そして会議は、このロンドンの時刻を基準に「タイムゾーン」という考え方で世界各国の時刻を定義することにしました。では「タイムゾーン」とは何でしょうか。
地球は北極点の真上から見ると360度の円です。そして24時間で1回転します。つまり1時間で経度15度分、動きます。そこで会議は、世界を経度15度ごとに24のゾーンに分割しました。これが「タイムゾーン」です。
※青い帯の中心線が「経度0」の経線。経度15度ごとに24の基本のタイムゾーンが設定されています。(出典:Timezones2011_UTC+0:MrMingsz, Public domain, via Wikimedia Commons)
「経度15度を1つの単位として」として時差を決めるという定義です。
たとえばフランスのパリは、ロンドンから経度15度分離れた、経度15度から30度の間の「タイムゾーン」にあります。そして、地球は右回りに自転(回転)しているので、ロンドンより経度15度分=1時間分早く、太陽の光の変化(日の出や日の入り)が起こります。
つまりパリとロンドンの「時差」は1時間。これに基づいてパリの時刻はロンドンより1時間早い時刻、と定義されました。このように定義すれば、パリでもロンドンでも、まったく同じ時刻に日の出や日の入りが起きることになります。
では、日本とロンドンの時差は何時間でしょうか? 私たちが使っている時刻(日本標準時)は、15度の倍数である経度135度の兵庫県明石市を基準に決められています。ですからロンドンと日本の時差は「135÷15」つまり9時間になります。ただサマータイムが導入されている期間は、ロンドンが時刻を1時間早めるので、時差は8時間になります。
こうした「タイムゾーンと時差」の定義に基づいて、世界各国の時刻は定義されているのです。ですから、時差を考えれば、遠く離れた国の時刻が今、昼夜の何時なのか、すぐにわかります。
GMT(グリニッジ標準時)という言葉は現在では、時間と時刻の定義が太陽や地球の動きを基準にしたものではなく、原子時計などの機器を使ってより精密に定義された「協定世界時(UTC)」に変わり使われなくなりました。しかし、時計の世界ではこの名前が残され、使われています。
世界がインターネットで昔よりもさらにひとつに繋がり、世界を相手にビジネスを行うことが当たり前になった今、「タイムゾーン」や「時差」という、世界の時刻を統一した概念は、ますます欠かせない大切なものになっています。
●タイムゾーンが違う時刻を「もうひとつの時針」で表示
※「グランドセイコー」の「エボリューション9 コレクション SBGE285」の文字盤。5時位置にある、トップに白い三角形のある針が、24時間で文字盤を1周するGMT針です。
<商品詳細2>
GMTウォッチはこの「タイムゾーンと時差」の考え方に基づいて作られた時計です。そして、今いる場所の時刻(ローカルタイム)を表示する普通の時分針に加えて、別のタイムゾーン「時」を表示する「GMT針」や「第2時針」と呼ばれるもうひとつの時針を備えています。
このもうひとつの時針を使うことで、別のタイムゾーンの時刻が、今居る場所の時刻(ローカルタイム)と同時に読み取れます。
なお、この別のタイムゾーンの時刻は海外旅行の場合、自分の母国(ホーム)に設定しておくことが多いので「ホームタイム」と呼ぶこともあります。
次回は日新堂が取り扱っている時計ブランドの製品の中から「おすすめのGMTウォッチ」とその特徴をご紹介します。
<商品詳細1>
Grand Seiko
Evolution 9 Collection
SBGE283
968,000円(税込)
2022年7月8日(金)発売予定
<商品詳細2>
Grand Seiko
Evolution 9 Collection
SBGE285
968,000円(税込)
2022年7月8日(金)発売予定