もっと知りたい時計の話 Vol.104

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史、時計が測る時間、この世界の時間などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

多くの時計には時刻の表示に加えて「日付(デイト)」や「曜日(デイ)」などのカレンダー表示が付いています。あなたは時計のカレンダー表示を使っていますか。こうした表示がある時計とない時計、どちらがお好みですか。今回は、時計選びで気になる要素、時計の基本機能のひとつ「日付、曜日表示」のお話です。

時計に日付や曜日の表示が付き始めたのは今から70年ほど前の1950年代の初め頃のこと。国産メーカーでは1951年に「セイコー」が「クロノメーター カレンダー」を、シチズンも1952年に「シチズン カレンダー」を発売しています。ただどちらも月、曜日表示も付いたトリプルカレンダーモデルでしたが、現在主流の「文字盤に開けられた小窓から日付の数字を読み取る」タイプではなく、日付は文字盤のいちばん外側にある数字を針で指し示す「ポインターデイト」式でした。その後、日付表示は1962年にシチズンが発売した「シチズン オートデーター」から、現在の「窓式」が主流になります。

そしてこの「窓式の日付表示」の先駆者として知られているのが「ロレックス」です。同社が1945年に発売した初代「デイトジャスト」は、何時間もかけて日付の数字がゆっくり変わるのではなく「午前0時になると日付が瞬間で次の日の数字に切り替わる」瞬間日送り機構を搭載し、いま現在も日付表示(デイト)付き時計の“お手本”ともいえる存在です。モデル名の「ジャスト」はこの「午前0時ちょうど」という意味を表しています。

スマートフォンやパソコンの画面を見ればいつでも正確な日付と時刻がわかる。そんな現代の私たちからはとても想像できないことですが、1950〜60年代当時は、多くの人が毎朝配達される新聞の日付や日めくりカレンダーで確認して生活していた時代。時計の日付表示は「画期的な機能」でした。今風に言えば、日付表示が搭載されたことで、時計はそれまでの「現在時刻がわかる道具」から「日常や仕事のスケジュールを管理する情報端末」になったのです。


通常、日付表示は3時位置か、この6時位置が一般的です(ロンジン:コンクエスト)

日付表示付きの時計が登場すると、その利便性は当時のビジネスパーソンを中心に高く評価され、日本に限らず世界中の時計メーカーが競って日付表示付きのモデルを開発・発売しました。ヨーロッパの技術史家はこの日付表示の搭載を「腕時計を贅沢な装飾品から現代的ライフスタイルの必需品へと塗り替えた決定的なイノベーション」だと評価しています。

1960年代に入ると日付に加えて「曜日」をフルスペルや略称で表示する「日付&曜日表示」モデル、いわゆる「デイデイト」モデルが登場します。パソコンなどなく、ほぼすべての文書が「手書き」だった当時、書類作りには日付や曜日の記入が欠かせません。そのとき、時計の日付表示や曜日表示はとても便利でした。そしてビジネスパーソンが使う「スタンダードウォッチ」「デイリーウォッチ」と呼ばれる時計のほとんどに日付や曜日表示が搭載されるようになりました。


日付&曜日表示の場合は、3時位置にこのように並べるのが一般的です(タグ・ホイヤー:タグ・ホイヤー カレラ デイデイト)

一方、ダイヤルのシンメトリー(左右対称性)やミニマリズム(シンプルさ)を優先するドレスウォッチでは、当時も今も日付表示のない「ノンデイト」タイプが主流です。また、世界的な時計ブームの中で人気を集める“昔の名作”の復刻モデルにも、ノンデイトが増えています。オリジナルのデザインを忠実に再現するため、ムーブメントに日付表示の機能があっても、あえて使わないのです。その背景には、時計が時刻や日付を知るための道具にとどまらず、自分のライフスタイルを表現するファッションアイテムになったことも大きく影響しています。

また、以前このコラム<Vol. 5>でご紹介した「暦を時計の中に内蔵した」パーペチュアルカレンダーに象徴される、機械式時計にとっては芸術的な複雑機構も見逃せません。そして、時計の中にはスケルトンウォッチのようにこの表示機構の構造や動きを文字盤から見ることができるものもありますから、もしあなたがメカニズム好きならぜひ一度ご覧になってはどうでしょう。シンプルな機能美に感心されると思います。

ただ、毎日時計を「着替える」、つまり時計を何本も持っていてその時の服装や状況、気分に合わせて変えている人の中には「使うたびに日付表示や曜日表示を合わせるのが大変だし、文字盤が左右対象にならないから、日付表示や曜日表示のないモデルがいい」という人もいます。

時計好きのコミュニティーでは、日付・曜日表示の機能性を重視する人を“デイト派”、表示を置かず文字盤の美しさや扱いやすさを重視する人を“ノンデイト派”と呼んでいます。毎日の便利さを選ぶか、すっきりとしたデザインを選ぶか。このコラムを読んでくださったあなたは、“デイト派”ですか? それとも“ノンデイト派”ですか?