もっと知りたい時計の話 Vol.102
さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史、時計が測る時間、この世界の時間などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。
生き物に寿命があるように、電子機器を動かす電池にも寿命があります。時計の電池の寿命とその交換については、以前の記事(Vol.40)でもお伝えしました。交換作業には特別な道具や電池や交換部品、特別な注意が必要なこと。だから自分では行わず、時計店のプロに依頼してほしいこと。
でも電池の中には、時計のように毎日のように使うアイテムで、自分でその寿命を考えて使わないと、かなり危険なものがあります。それは、外出先でスマートフォンを充電するためのモバイル(リチウムイオン)バッテリーです。今回は意外と知られていない、モバイルバッテリーの使用可能な時間、つまりその寿命や寿命を延ばす使い方の話です。
最近、SNSやテレビのニュースでモバイルバッテリーの発火事故がよくニュースで取り上げられます。この夏休み、国内旅行や海外旅行で久しぶりに飛行機を利用した人はモバイルバッテリーの機内持ち込みや使用が厳しく制限されていて、ちょっと驚かれたのではないでしょうか。航空会社それぞれに、決まりは微妙に違いますが、預け入れ荷物に入れるのは絶対に禁止。機内に持ち込めるのは100Wh(ワットアワー)以下の小型のものが2つで、機内での使用や充電は禁止。しかも、飛行中はカバンの中ではなく、座席の前のポケットに入れておくのが決まりになっています。
モバイルバッテリーに使われているリチウムイオン電池は小型・軽量で大容量というメリットがありますが、電気エネルギーを蓄えている電池セルの中の電解液に可燃性の有機溶剤を使っていて、その中にはセパレーターという部品で仕切られています。そして温度の高い場所に放置される、床に落してしまうなど強い衝撃が加わる、電解液が温度で膨張する、などの原因でこの仕切りが壊れると、電池の劣化による電池容量の急激な低下や電極のショート(短絡)が起きてしまいます。

リチウムイオン電池の基本構造図。セパレーターが壊れると、大電流が流れて、同時に電解液が一気に化学反応を起こして発熱・膨張します。
電池容量が低下するとスマートフォンがしっかり充電できなくなりますし、電池セルの経年劣化や落下などの衝撃で電池の内部が壊れるとモバイルバッテリー(複数のセルを組み合わせたものがバッテリー)の中を異常な大電流が流れ、内部の配線や部品が急激に発熱して、その熱で電解液に火が点いて発火、セルが破裂する「熱暴走」という現象が起きてしまうのです。しかも、たったひとつのセルでもこの現象が起こると、周囲の電池セルにも連鎖的に燃え広がるので消火が難しく、ケースが溶けたり火花が出たり、最悪の場合はバッテリー全体が激しく燃えてしまいます。
まずは、どのくらいの温度がモバイルバッテリーにとって危険な高温なのでしょうか? 大手メーカーの説明書を読むと、推奨動作温度はおおむね0〜35〜40℃程度。モバイルバッテリーの専門メーカーの公開データでは、40℃の環境に400時間さらされると電池容量が94%まで低下し、60℃では何と80%以下まで劣化するとされています。つまり40℃を超えるあたりから、発火はしなくても電池の容量低下や寿命の短縮が一気に進んでしまうのです。
まさか、普通ならそんな高温にはならない? 実はこのくらいの温度は決して珍しくありません。クルマが故障したときお世話になる日本自動車連盟(JAF)が実施したテストでは、外気温が35℃に達する炎天下のとき、運転席ダッシュボート付近の温度は79℃になったという実験結果があります。つまり真夏の炎天下でモバイルバッテリーをダッシュボード付近に放置することは、間違いなく「危険」なのです。
また、はっきり数値でわかる温度とは違い、落下などの衝撃で電池セルが受けるダメージは外観からではわかりませんから注意が必要です。
そして普通に使う、つまり充電と放電を繰り返すだけでも、モバイルバッテリーは劣化していくのです。これを「サイクル劣化」や「カレンダー劣化」といいます。これはモバイルバッテリーばかりでなく、スマートフォンやスマートウォッチ、パソコンなど内蔵されているリチウムイオンバッテリーも同じです。
では、モバイルバッテリーの寿命はどのくらいでしょうか。使い方で寿命は変わりますが、メーカーや専門家はだいたい「4年から5年前後」としています。
使用期間:使い方
1〜2年:特に「発熱」などの問題がなければ、普通に使って大丈夫。
3年前後:電池容量の低下や発熱、ケースが膨らんでいないかをチェックして、問題がなければ使う。もし問題を感じたら使用を止める。
4年〜5年:問題がなくても、寿命だと考えて積極的に「買い替え」を検討する。
そして使わなくなったら、一般のゴミの中には絶対に入れず、自治体や家電機器販売店の回収拠点に持ち込んで捨てましょう。一般ゴミの中に入れたり、不燃ゴミの置き場に放置したことで発火するなど、モバイルバッテリーが原因でさまざまな事故が起きていますから。
また、使用期間に関係なく、ふだんはどんなことに気をつけてモバイルバッテリーを使ったらいいでしょうか。 前に述べたように、
・高温になる場所に放置しない。
・床に落とすなどの衝撃を加えない。
はもちろんですが、
・製造メーカーの名前や品質表示がない、製造年月や使用期間がわからないものは使わない(品質表示は「PSEマーク」で、ケースに記載されています)。
・電池は充電時と放電時に発熱するので「充電しながら使わない」。
そしてもうひとつ、
・発火事故は充電時がほとんどなので、できれば「近くに人がいる状態で充電する」のも心がけたいことのひとつです。

左:右中央に見える、◯の中に「PSE」とあるのがPSE規格に適合してくることを示すPSE表示。右:このバッテリーの場合は左上に見える「165W」が出力値。そのため機内には持ち込めません。また、バッテリーの表記はこの写真のように小さい文字で読取りにくく、しかも不親切なことに「20,000mAh × 3.7V」のような表記が一般的。この場合は掛け算して74Whが出力になります。購入する場合は店頭で確認しましょう。
スマートフォンのお供であるモバイルバッテリーは、どちらも今、使わないわけにはいかない“いちばん身近な電子機器”。安全のために、ぜひその寿命を考えて使いましょう。