もっと知りたい時計の話 Vol.92

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史、時計が測る時間、この世界の時間などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

皆さんは、今は動かないけれど大切で捨てられない、そんな古い時計をお持ちですか? それはあなたにとって思い出深い大切な時計ではありませんか。できれば修理したい、復活できるなら自分で使いたい時計ではありせんか? 今回はそんな“大切な古い時計の修理の話”です。

少し前までは、そのような古い時計を正規のサービスセンターに持ち込んでも「交換部品がもうないので、残念ですが修理できません」と断られてしまう。そんなことがよくありました。でもこの10年あまりの間に状況は大きく変わりました。

多数の時計ブランドを傘下に持つラグジュアリー・グループや、高級時計ブランドを中心に「修理サービス部門の充実・強化」が「ブランド継続の鍵になる大切な取り組み」として推進されるようになりました。その結果、これまで修理サービスにあまり力を入れて来なかった時計ブランドもその強化・充実に本気で取り組んでいます。

ではなぜ、時計ブランドは修理サービスの充実に、かつてないほど力を入れているのでしょうか。それには理由がふたつあります。ひとつは皆さんもご存知の「SDGs(エスディージーズ/日本語で持続可能な開発目標)」。2015年に国連が決めた、モノや資源のリユース(再利用)、リデュース(削減)リサイクル(資源としての再利用)などの推進に関する2030年までの国際目標です。この中には、これまでの「使い捨て文化」を反省し「次の時代に受け継ぐ価値のある良いモノを長く使おう」という考え方がしっかりとあります。そしてスイスをはじめヨーロッパの企業、特にラグジュアリー・ビジネスを展開する企業はこの目標の達成に力を入れています。そしてもうひとつの理由が、2000年頃から現在まで四半世紀も続く「高級時計ブーム」の中で「時計=資産」という考え方が、時計コレクターばかりでなく富裕層へ、さらに普通の人にも一般常識として広まったこと。時計は「使い捨てるもの」ではなく、絵画や美術品と同じように、世代と時代を超えて受け継ぐ価値のある資産。だから高いお金を払っても購入するだけの価値がある、という認識です。そして時計の“高い資産価値”の前提になるのが「ちゃんと動く」「壊れたら修理できる」こと。

ですから時計ブランドは今、その資産価値を過去から現在、さらに未来に渡って守るために「修理サービス部門の充実・強化」に力を入れているのです。それはブランドの価値と信用、消費者からのブランドへの信頼を高めることになりますし、自社の時計を「世代を超えて受け継ぐ価値のあるもの」であることを消費者にアピールすることにもなります。だれでも同じ金額で時計を買うなら「より価値がある時計」を選びたいですよね。

そして、この考え方を世界に先駆けて実践し、時計ブランドとして絶大な信頼を確立してきたのがスイス・ジュネーブの名門パテック フィリップです。同社は「1839年の創業以来、これまでに製造されたすべての時計を修理・修復します」と宣言。ジュネーブのプラ・レ・ワットにあるパテック フィリップの本社には、古い製品の修理・修復を行う専門の部署があって、交換部品が手元にない古いモデルでも、熟練の職人が、昔ながらの技術を駆使してパーツをゼロから手作りして修理してくれます。時間も費用もかかりますが、製作された当時そのままに修復してくれるのです。

「すべての製品を修理する」と約束しているパテック フィリップの哲学について解説した公式ページ(英語版)

今、多くの時計ブランドが同社のこうした取り組みをお手本に修理サービス部門の整備・拡張を進めています。修理できない最大の理由だった交換部品の欠品問題も、部品を長期保管する体制の整備や基本的な部品の再製造で解決されつつあります。時計修理は手間と時間のかかる仕事なので、実際に修理する場合には、費用はそれなりにかかります。でも、以前なら正規のサービスセンターに持ち込んだとき「できません」と修理を断られた時計でも今なら修理が可能になっています。

もしあなたが「ぜひ修理したい」という、そんな大切な時計をお持ちなら、時間はかかりますが時計店を通じて時計ブランドの修理サービス部門に修理の相談をしてみてはどうでしょう。預けた時計が修理可能な場合、修理サービス部門から「修理したらいくら費用がかかるか」の見積が必ず送られてきます。それをあなたが承認しなければ勝手に修理されることはありません。しかし、費用が高くて修理を諦めた場合、中には見積費用が請求される場合もありますが、時計はそのまま必ず戻ってきますから安心です。もしかしたら修理で“次の世代に受け継ぐ価値のある時計”になるかもしれません。