もっと知りたい時計の話 Vol.87
さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史、時計が測る時間、この世界の時間などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。
今年2026年の干支(えと)は、十二支で7番目の午(うま)です。
年男、年女を迎えたみなさん、おめでとうございます。
ところで、干支ではなぜ動物の「馬」ではなく「午」という字を使うのでしょうか?
「午」という漢字は、餅をつくときに使う「杵(きね)」の形から生まれた象形文字で、杵が上下に動く様子から「上下に交わる」「切り替わる」という意味が生まれ、そこから陰陽が入れ替わる「一日の折り返し地点」、つまり太陽が南中する、南の空のいちばん高いところに来る昼の12時=正午(しょうご)という言葉が、さらに「正午の前」という意味から「午前」が、「正午の後」という意味から「午後」という言葉が生まれました。また太陽が東から登って南で一番高くなって、西に沈む。このことから「南」を意味する漢字にもなりました。現代では「経度」を意味する「子午線」という言葉も「北(子)と南(午)を結ぶ線」という意味です。
そして「午(うま)の刻」というのは、現代の時間で午前11時から午後の1時。24時間制で言えば11時〜13時。これは太陽の光が一日の中でいちばん強い時間帯ですね。
現代の「干支」の起源は紀元前13世紀頃、中国で存在が確認されているもっとも古い王朝で、甲骨文字を使っていたことでも知られる殷(いん)王朝で使われていた「十干十二支(じっかんじゅうにし)」とされています。十干(じっかん)とは、「甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、癸(こう、おつ、へい、てい、ぼ、き、こう、しん、じん、き)」という、太陽の動きをもとに作られた10個の記号で、太陽に基づく暦や順番、方角などを示すのに使われました。一方、十二支(じゅうにし)は、月の満ち欠けや木星の周期を元に作られた、植物が芽吹き成長し枯れて種に戻るまでの12の循環するプロセスを表す記号でした。
そして、古代中国では、万物はすべて「陰」と「陽」の2つの要素に分けられるとする「陰陽説(いんようせつ)」と、すべて「木」、「火」、「土」、「金」、「水」の5つの要素からなるとする「五行説(ごぎょうせつ)」という思想がありました。これらを組み合わせて「陰陽五行説」といい、やがて陰陽五行説を「十干」に当てはめるようになりました。また日本では、この「陰」と「陽」を「兄(え)」と「弟(と)」に見たて、「兄弟(えと)」と呼ぶようになりました。
今から3000年以上も昔の紀元前1600年から1046年ごろに中国にあった殷王朝の王様は、この「十干」と「十二支」というふたつの記号体系を組み合わせて「六十干支(ろくじっかんし)」という60通りのペアを作りました。そして「世界がこの60回のサイクルで変化する」と考えて、これを日付に当てはめて、政務を行う日の運勢を占うときに使っていました。ここまで、干支と動物は無関係だったのです。
しかしそれから1000年以上が経った西暦25年から220年ごろに成立した後漢の時代、光武帝が日本の「倭の奴国」に金印を授けた頃、いまから約1900年前に、暦や時間の感覚を一般の人々にも理解してもらい普及させるために、身近な動物や空想上の動物でもなじみのある龍を当てて覚えやすくした今の干支、「十二生肖(じゅうにせいしょう)」が成立したとされています。

2025年は巳年。今年2026年は午年。そして来年2027年は未年です。
しかも、動物の名前を「当てた」うえに、なぜ干支の動物がこの順番になっているのかを説明する民話も作られました。中国の神様やお釈迦様が、「元旦の朝、挨拶に来た順番に12番目までその年の大将にする」というお触れを出して動物たちがレースをした。一番乗りは牛の背中に乗ってきたねずみだった。猫は寝坊して十二支に入れなかったというあのお話です。子どもの頃、聞かせてもらった方もいらっしゃるのでは。そこから現在のような「自分は午年(うまどし)です」「未年(ひつじどし)です」と、生まれ年を語る習慣が始まったのです。
そして馬は日本でも世界でも、現実世界でも神話の中でも高貴な存在として尊重されてきました。日本では4〜5世紀ごろに朝鮮半島から外来動物としてもたらされましたが、まずは騎馬として朝廷の軍事力や威信を象徴する存在として大切にされます。
さらに馬は「神様の乗り物」として神聖視されるようになります。神様は馬に乗って人間界に降りてくる。そして馬は人々の願いを神様に届けてくれる存在だという、いわゆる「神馬(しんめ)信仰」です。この信仰に基づいて、奈良時代以前から日本には馬を「神様への贈り物」や「祈願や感謝の印」として本物の馬を神社に奉納する習慣がありました。私たちが願いを書いて神社に奉納する木製の「絵馬(えま)」はこの「奉納する本物の馬」の代わりなのです。
今年のお正月、日本各地の神社には、冒頭でご紹介したように、「馬」がモチーフになった絵馬が、さまざまな人のさまざまな願いを込めて奉納されています。そして多くの人が「絵馬はお正月に奉納するもの」と思っておられるのではないでしょうか。
ところが、神社の方に伺うと、絵馬を奉納する時期に厳格な決まりはなく、自身の願い事や状況に合わせていつでも行うことができるそうです。 あなたも今年、神社に行かれる機会があったら、絵馬に乗せて神様にあなたの願いを届けてみてはどうでしょうか。