もっと知りたい時計の話 Vol.79
さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史、時計が測る時間、この世界の時間などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。
あなたは「チ。―地球の運動について―」をご存知ですか? アニメーションはご覧になりましたか? 2020年から2022年にかけて「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載された、魚豊(さかなゆたか)氏によるこの天文マンガは2024年にアニメーション化され、世界的にも大人気となりました。この作品は「地動説」を題材に、科学への情熱や知識欲、知と権力との関係をテーマにした歴史フィクションです。原作漫画は『第26回手塚治虫文化賞』マンガ大賞など数々の漫画賞を席巻し、累計売上部数は250万部を突破しています。
舞台は地球を中心に宇宙が存在するという“天動説”こそ真理だと教会が定め、この説を覆す研究や、地球が太陽の周りを回っているという“地動説”を信じることさえ重罪とされた15世紀のヨーロッパ。純粋で科学的な知的好奇心から地動説に到達し、この事実を出版物にして何とか世界に広めたいと命がけで活動する人々。彼らを神に逆らう異端者、犯罪者として苛烈に取り締まる教会の異端審問官たち。彼らの姿を何十年にも渡って描き、科学とは何か、思想や知識の自由とは何かを考えさせる壮大な物語です。
この地動説を著書『天球の運動について』(1543年)で、世界で最初に理論的に提唱したのが、ポーランド王国の天文学者ニコラウス・コペルニクス(1473〜1543)。そして、ポーランドの首都ワルシャワには天文好き時計好きには絶対に見逃せない天文時計があります。それが、チェコ・プラハの旧市庁舎に取り付けられている、プラハのシンボルとしても名高い「プラハのオルロイ」です。この時計は1410年に時計師のミクラス・カダンと天文学者のヤン・スィンデルによって製作され、1490年ごろに新たなメカニズムが加えられました。さらに16世紀に時計マイスターのヤン・タボルスキーの手で修復・修正され、1865〜66年の大改修で「からくり人形」機構も加わって現在の形になりました。第二次世界大戦中にドイツ軍の攻撃で破壊されましたが、戦後3年をかけて修復され1948年から再び時を刻み続けています。
そして東京の新宿、西新宿の超高層ビル街にある地下4階、地上44階の超高層ビル「LOVEのオブジェ」でも有名な新宿アイランドには、この「プラハのオルロイ」をモチーフに、イタリアのデザイナー“ジュリオ・パオリーニ”がデザインした、機能的にはそのレプリカと呼べる天文塔時計があります。これは「LOVEのオブジェ」を筆頭に10人のアーティストによるパブリック・アートのひとつです。表裏ふたつの文字盤で表示されるのは、天体の運行、星座、時間。東西南北の4方向にそれぞれカリヨン(時を知らせる鐘)」がセットされています。残念ながら現在は音が出ませんが、かつては毎日9時、12時、18時を音で知らせていました。
ビルのグランドオープンは1995年(平成7年)5月1日。今からちょうど30年前。この時計の製作は1993年にスタート。ベルギーのクロコマティック社の協力の下、当時の精工舎(現在はセイコーウォッチに事業統合)が製作を担当しました。
JR新宿東口の方向から見た天文時計は、有名なオブジェ「LOVE」の左手奥にあります。
こちらは新宿アイランドタワー側から時計塔を見たところ。一番上の丸い穴の部分にはカリヨン(鐘)が搭載されています。
なお、地動説以前に作られたプラハの天文時計を踏襲し、この時計も地動説ではなく天動説に基づいた太陽系が表現されていて、金色の太陽のモチーフが24時間で文字盤を一周します。文字盤の中央が地球を、その上の青い部分が地平線の上にある空を表していて、赤と黒の部分が地平線の下に隠れた空を表しています。また、明け方や黄昏のとき、太陽のモチーフが赤と黒の部分に位置するようになっています。そして、裏側は星座盤表示付きの時計になっています。
左が「プラハのオルロイ」の天文時計のレプリカ部分。星座表示の上にある針の金色の部分が「太陽」のモチーフで、24時間かけて文字盤を一周します。そして右がその裏側の星座盤付きの時計。
最寄り駅は東京メトロ丸の内線『西新宿駅』から30秒。都営大江戸線『都庁前駅』から住友ビル方面に向かって徒歩約8分。『新宿西口駅』から青梅街道沿いを歩いて約10分。JR新宿駅の西口から新宿副都心方面に向かって徒歩約10分です。あなたが時計やパブリック・アートにご興味があるなら、ぜひ立ち寄ってみてはどうでしょう。