もっと知りたい時計の話 Vol.75

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史、時計が測る時間、この世界の時間などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

あなたは時計のストラップを交換したことがありますか。そのとき、時計店で交換をお願いしましたか。それとも自分で行いましたか。今回は時計のストラップやブレスレットの話です。

夏は時計にとって厳しい季節です。夏休みでリゾートに出かける予定の方も多いでしょう。その結果、水に触れる機会が他の季節より多くなるので防水性が問題になります。でも最近の時計は、本体の防水性はしっかり確保されているものが多いので、その点はあまり心配しなくて大丈夫です。

ただ時計の中でもひとつだけ、とても水に弱い部分があります。それはレザーストラップです。しかも高級な素材のものほど、高級時計に使われていることが多いのです。汗をかかずにはいられない暑い夏は、同じレザーストラップの時計を毎日着け続けると、あっという間に劣化してしまいます。その取扱いには特に注意したいものです。

ですから同じ時計を毎日着けるなら、メタルブレスレットやシリコン素材、汗や水に強いラバー素材、レザー素材でもしっかり防水加工が施されたものに交換することをおすすめします。それにストラップやブレスレットの交換は、いちばん手軽な“時計のリフレッシュ”としてもおすすめです。

地味な色のレザーストラップをカラフルなラバー素材やシリコン素材のストラップに換えてみると、それだけで気分が上がり、いつもの時計が生まれ変わったように感じて新鮮。また、重いメタルブレスレットをラバー素材やシリコン素材のストラップに換えてみると、それだけで腕元がとても軽くなります。ただし、ストラップやブレスレットの交換は、自分の手で行うのは簡単ではありません。なぜなら多くの時計が日本では「バネ棒」、英語では「スプリングバー」と呼ばれる、細いステンレス製のパイブの中にバネを組み込んで伸縮できるようにした部品によって、ストラップやブレスレットを時計本体に取り付ける構造になっているからです。


こうした構造のストラップやブレスレットの交換には、先端が少し絞ったU字型の薄い金属でできている「バネ棒はずし」という特殊工具が欠かせません。ストラップやブレスレットを取り外すときは、時計本体とバネ棒のすき間にこの工具の先を差し込みます。そして、バネ棒の小さな溝をはさみ込んで「ギュッ」と押して内部のバネを縮めて、時計本体に刺さっているバネ棒の片側の先端を外します。このとき慣れた人でもよくやる失敗が、バネ棒はずしで時計を傷付けてしまうこと。そしてもうひとつは、押し縮めたバネの伸びる力で飛び出すバネ棒を「飛ばして」しまうことです。バネ棒は長さ2センチ以下、太さ1ミリ程度の小さな部品なので探しにくく、無くしてしまうことも珍しくありません。やはり、バネ棒を使った時計のストラップやブレスレットの取り外しや取り付けにはかなりの熟練が必要です。


最近ではバネ棒を縮めるのに「バネ棒はずし」を使わなくてもバネ棒を縮めることができるレバーが付いた「ワンタッチバネ棒」、フランス語で着替えるという意味の「アビエ」と呼ばれるバネ棒を組み込んだストラップもあります。ぜひ自分で交換してみたいという方にはこのタイプをおすすめします。とはいえ、バネ棒を使った時計のストラップやブレスレットの交換はとても繊細な作業。ですから、特に昔ながらのバネ棒が使われている時計の場合は、交換は時計店などのプロにお任せすることをおすすめします。


「ワンタッチバネ棒」を組み込んだシリコン製ストラップ。指先でレバーをつかんで左にスライドさせることでバネ棒を縮めることができます。

またうれしいことに2010年ごろからは、時計店のプロに頼まなくても、ブレスレットやストラップがボタンを押すだけで自分だけで簡単に取り外したり取り付けたりできる「クイックチェンジシステム」や「イージーチェンジャブルシステム」と呼ばれる機構が、スイスの有名時計ブランドを中心に採用されるようになりました。ブランドごとに名称は違いますが、ほとんどがブレスレットやストラップの中に、ケースと噛み合う丈夫な爪などが組み込まれていて、その爪がケースのくぼみと噛み合うことでケースとガッチリ一体化する構造です。組み込まれたボタンを押すことやレバーをスライドさせることで、この噛み合わせが外れ、だれでもすぐに別のブレスレットやストラップに交換できるようになっています。またブレスレットの場合は、コマを取り外して長さを自分で簡単に換えられる構造のものも増えています。


「ロンジン インターチェンジャブルシステムを搭載した、ロンジンの最新作「ロンジン スピリット ZULU TIME(ズールータイム)」。ブレスレットの付け根の2つ穴の空いたボタンを押すだけで、ブレスレットがケースから取り外せます。

簡単に交換できるので、服の色やシーンに合わせて交換して、1本の時計を何通りにも楽しむことができるようになりました。これから時計を新しく購入される方で、ファッションアイテムとして活用したい方は、ぜひこのクイックチェンジシステムやイージーチェンジャブルシステムを備えた時計を選んではどうでしょう。