もっと知りたい時計の話 Vol.74

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史、時計が測る時間、この世界の時間などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

あなたの時計は機械式ですか? 
その時計を定期的な整備(メンテナンス)に出したことがありますか?
機械式、クォーツ式を問わず、精密機械である高級時計には、定期的な整備が必要です。

電池で動くクォーツ式の場合は電池寿命があります。電池の寿命は短いもので2年間〜3年間。長いものでも5年〜10年程度。電池が切れると時計は止まってしまいます。だから定期的な電池交換が欠かせません。つまり「電池交換」のときにメンテナンスが行われます。

また、こうした電池式のクォーツ式時計には「電池切れ警告機能」が付いています。たとえばアナログ表示のモデルは電池が少なくなると秒針が1秒ごとではなく2秒おきに動くステップ運針で「そろそろ電池切れです」と教えてくれます。デジタル式表示のモデルでは、ディスプレイの電池マークが点滅して教えてくれるのですぐにわかります。電池式のクォーツ式時計にはこうしたかたちで「メンテナンスを受けるきっかけ」が用意されています。

「電池交換くらいは自分でやりたい」という方もいらっしゃるでしょう。でも、ケースの裏ぶたを開けて行うクォーツ式の電池交換は、乾電池を使った普通の家電品の電池交換と違いとても難しく、時計店やサービスセンターのプロにお任せした方が良いという話は、以前のこのコラムでお伝えしました。

一方、機械式時計の場合はクォーツ式と違って「メンテナンスを受けるきっかけ」がありません。とりあえず動いて使うことができる状態だと、特に問題だと思いませんよね。メンテナンスを決意するのは、進み遅れが使えないほど大きくなったり、時計が動かなくなったりしたときでしょう。

使い続けた結果、機械式時計が止まったり、大きく進み遅れが起きたりしていると、ムーブメントが大きなダメージを受けている可能性が高いのです。そのため内部の部品を交換する必要もあり、メンテナンス費用がかなり高額になることがあります。

メンテナンスの多くが「電池交換」だけで済むクォーツ式時計と違って、機械式時計を長く使い続けるためには、数年おきにしっかりとしたメンテナンス、具体的には部品をバラバラにして洗浄し、また組み直すオーバーホール(分解掃除と組み直し)が必要です。なぜなら機械式時計のムーブメントは数十個、モデルによっては数百個もの歯車とバネでできていて、いつもこうした部品同士が噛み合いながら動いています。そのため、不具合があるのにメンテナンスをしない状態で使い続けると、噛み合っている部品同士が傷付け合って大きな故障につながります。


クロノグラフのムーブメントは、150個以上の微小な部品で構成されています。

なぜ部品同士が傷付け合ってしまうのでしょうか? いちばんの原因は、部品同士の接触を和らげる、歯車輪列の回転をスムースにしている潤滑油が、長い間使い続けていると、蒸発してなくなったり、成分が劣化したりしてしまうからです。

機械式時計には何十個もの歯車があり、動力源であるぜんまいからの力で回転しています。そして回転する歯車を支える軸受には、人工的に作られた赤紫色のルビーが使われています。機械式時計のスペックで「何石」と書かれているのは、このルビー製の軸受の数なのです。わざわざルビーを使うのは金属製の歯車より硬くて、回転する歯車と接触しても削られないからです。そしてこの軸受にはごくわずかですが潤滑油が差してあります。

ところが使い続ける間に潤滑油は少しずつ蒸発して減ってしまいます。また長い年月の間に時計の内部にあるホコリや歯車同士が噛み合うときに出てきてしまう微細な金属粉が潤滑油の中に取り込まれて、サラサラだった潤滑油が粘土のようなペースト状になるなどして、歯車の回転を邪魔するようになります。

こうなると歯車が設計通りにスムースに回らない、1秒間に8回ものスピードで回転往復運動を繰り返す調速機の軸(天真)が、ルビーの軸受と直接接触することで削れてしまうなど、最後は時計の重大な故障につながる不具合が起きてしまいます。故障までに至らなくても、本来なら洗浄だけで済むはずの高価な部品を、交換しなければならないことも珍しくありません。どの時計ブランドのどんなモデルかでも金額は大きく違いますが、こうした大きなトラブルが起きてしまった時計の修理費用は、定期的なオーバーホールにかかる金額よりもずっと高くなります。


●機械式時計のオーバーホールの手順と内容

1:分解、確認
時計を構成している部品を分解します。機械式ムーブメントも、ネジ1本までバラバラの状態に分解します。そしてひとつひとつの部品を再利用可能かどうか確認します。

2:部品の洗浄
再利用が可能な部品を、専用の機械と特殊な薬品を使って完全に洗浄します。

3;再組み立て
洗浄された部品と、交換部品を調整&注油しながらていねいに組み上げます。部品同士の噛み合わせ調整や注油には特別な技術が必要です。

4:検査、調整
組み上げた時計の精度、防水性などが基準値にあるかを専用の機器を使って確認します。精度チェックには数日間かかります。

5:仕上げ
外装の修理や仕上げを行います。ケースの磨き(ポリッシング)には特別な技術とノウハウが必要です。
※オーバーホールの費用は、モデルや時計の状態で変わります。交換する部品がある場合は、その分だけ費用は高くなります。時計店で対応できないオーバーホールは、メーカーのサービスセンターで行います。メーカーが認める正規のオーバーホール後は一定期間メーカー保証が受けられる場合があります。


では、機械式時計は何年ごとにメンテナンスすれば良いのでしょうか。時計ブランドやモデルによってその期間はさまざまですが、だいたい4〜5年おきに時計店やサービスセンターでメンテナンスを受けることをオススメする時計ブランドが多いようです。

ですからあなたが、いまお使いの機械式時計をいつまでも大切に使い続けたい、資産として子どもたちに受け継いでいきたいとお考えなら、特に「進み遅れ」や「止まり」などのトラブルはなくても、4〜5年おきにお買い上げの時計店や、その時計ブランドの正規のサービスセンターに持ち込むことをおすすめします。クルマと同じで「故障が起きてから」では事態が深刻になってしまいますから。