もっと知りたい時計の話 Vol.67 

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

あなたがお持ちの時計の外観は、どんな形ですか?
文字盤やケースの形は円、つまり丸形。
それ以外? それなら四角形、それとも八角形?
今回は時計の外観、より正確に言えば時計の文字盤とケースの形の話です。

丸形が時計の文字盤やケースの基本形なのは、13世紀後半に機械式時計が誕生したときから。さらにその起源を遡ると「1日=24時間」「1年=約360日」という12進法、60進法による時間や季節の概念が生まれた、また日時計が使われていた古代バビロニアや古代エジプトにまで至るといいます。

太陽が地平線から出て来て、夜が明けて朝が来る。太陽が空に登って正午に一番高い場所に登り、今度は下って地平線に消えるとまた夜になる。1日が24時間周期であること。さらに、夜空の星座の位置の観測から、星座の位置と季節が1年=約360日周期で巡ってくることも、古代の人たちは知っていました。そして、循環している時間や季節を表現するには、やはり循環式の表示、つまり丸い文字盤と回転する針の組み合わせが最適だと考え得たのです。丸い文字盤、その中で回転する針に合わせて、ムーブメントも、ムーブメントを包むケースも丸形に。ちなみに、太陽の軌道が円を描き、またその影も円を描くからでしょうか、日時計も丸い文字盤のものがほとんどです。

そして丸形は、あらゆる図形の中で幾何学的にも、いちばんバランスの取れた優れた形です。対称性という意味でも、円=丸形は完璧。円はその中心から360度、あらゆる方向に完璧な対称性を備えていますし、中心を通る直線を引けば、その直線が対称軸になります。 図形として理想だからでしょう、自然界では多くのものが丸形、そしてその立体である球形をしています。デザインの世界でも丸形ほど“イメージの良い”図形はありません。優しさ、調和、おだやかさ、柔らかさ。あらゆる意味でパーフェクト。そのため、時計の世界でも、丸形文字盤、丸形ケースの時計が製品に占める割合は圧倒的です。丸形文字盤&丸形ケースの製品しかない。そんな時計ブランドがおそらく8割近くに登ります。

では、時計の世界で丸形の次にはどんな形があるでしょうか。それは四角形。そして八角形と楕円形です。

まず四角形は、丸形と並んで幾何学的にとても安定した、バランスの取れた形です。丸形とのいちばんの違いは、シャープな角。丸形にはない、突出した部分でしょう。さらに四角形には、“転がる”丸にはない、ズシリとした安定感があります。その結果、丸形の持つ“柔らかさ”の対極となる、堅固さ、力強さ、折り目正しさ、端正さがあります。この折り目正しさ、端正さこそ、丸形の時計にはない四角形の時計の魅力。


シャツの袖口からチラリと見えるとき、四角形だとよりフォーマルな雰囲気が漂います。

そのため、四角形の時計、具体的には正方形(スクエア)や長方形(レクタンギュラー)の時計は、男性の間では特にドレスウォッチの世界で、お洒落な人々の間で愛されてきました。そのため、ドレスウォッチをコレクションに持つ名門時計ブランドには、例外なく正方形や長方形の時計コレクションがあります。

また、丸形と四角形の良いところ、それぞれの特長を組み合わせた図形を採用した時計もあります。 そのひとつが「クッション形」や「TVスクリーン形」と時計業界で呼ばれている形。これは四角形(スクエア)の4つの辺、その2つの辺、4つの辺すべて、あるいは4辺にカーブされた風防をカーブさせたもので、僅かに中央が膨らんで盛り上がり、4つの角に向かってキュッと絞られた形です。 「テレビは四角ではなく長方形では?」と若い世代は思うかもしれませんね。実はTVスクリーン形の「TV」は、今の液晶や有機ELパネルのデジタルテレビではなくて、ブラウン管を使ったテレビだったから。 しかもこのクッション形やTVスクリーン形の時計には、文字盤を丸形にしたものも少なくありません。つまりケースは四角形でも、文字盤は丸形。これも「丸形と四角形のよいところ取り」の時計デザインのひとつです。


オーバル形時計の名作といえば、パテック フィリップの「ゴールデン・エリプス」。ケースの縦横は“神の比率”として古代ギリシャから知られている黄金比(1:1.6181)に基づいています。

そしてもうひとつが楕円(オーバル)形。さらに、楕円形をより立体的にしたのが「トノー形。トノーとはフランス語でワインなどを入れる木製の「樽(たる)」のことですが、これは長方形の4辺と風防をカーブさせて生まれた、また楕円形をより立体的にした形ともいえます。このふたつは、すべてが曲線に囲まれているので、丸形とも四角形とも異次元の“優雅な雰囲気”が魅力です。

さらに、丸形と四角形の中間、ふたつが融合した形として時計業界で不動の人気を誇るのが八角形(オクタゴン)。八角形は、丸形の完璧な対称性と、四角形の安定性、力強さを備えた形で、中国の風水思想でも“縁起の良い形”としても有名です。

もし、いま丸形の時計しかお持ちでないという方。 四角形や楕円など、円ではない時計をひとつ、手に入れてみてはどうでしょう。