もっと知りたい時計の話 Vol.66
さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。
日本の政治の中心地といえば、東京都千代田区永田町。ここには国会議事堂や議員会館や国会図書館。また、現在の与党である自由民主党の本部もあります。この永田町の1丁目1番地にそびえ立つ、高い時計塔があることをご存知でしょうか。
その名を「三権分立の時計塔」と言い、今から65年も前の1960年に立てられました。鉄筋コンクリート製で、高さ31.5メートルの堂々たる高さ。3本の柱をひとつに合わせた三角塔で、3面にそれぞれ時計があり、ひとつが立法の中心・国会議事堂を、ひとつが行政の中心・霞が関の官庁街を、もうひとつが司法の中心・最高裁判所を向いているそうです。設計者は日本の公共建築物初のコンペティションで選ばれ、憲政記念館(当初は尾崎記念会館。のちに財団から国に寄付され、今の名称に。現在は改築工事中で、国立公文書館と一体の施設になる予定)を設計した建築家の海老原一郎氏。氏は日本を代表するモダニズム建築家で、1976年から80年まで日本建築家協会会長も務めた名建築家です。
これが「三権分立の時計塔」1960年6月完成。英文の銘板には「The clock of the Ozaki Memorial Hall is a gift from the Swiss watch industory」。日本語の銘板のには「この時計塔は、時計をはじめ資材その他左記のとおり各方面の協力によって完成したものである」そして「スイス時計業界 親子時計一式」という記述がある。
実はこの時計塔には、3つの逸話があります。
その逸話のひとつが三角塔というカタチ。「憲政の神様」「日本の議会政治の父」といわれた尾崎行雄翁(明治 23 年の第1回総選挙から連続 25 回当選、昭和 28 年までの 63 年間、衆議院議員)が強く提唱してきた「立法・行政・司法の三権分立、互いに侵犯すべからざる事」という主張を取り入れ、三面の時計塔にしたということです。
そして2つめの逸話が、時計塔の高さ。最初の構想では時計塔は15メートルの予定で、現在は建て替え中の旧憲政記念館に隣接する予定でした。しかし、旧・憲政記念館を建築した尾崎行雄記念財団の初代理事長・川崎秀二(衆議院議員、元厚生大臣)が「15メートルでは丸の内はおろか霞ヶ関一帯でもその存在がわからない。元来時計塔を建てる意義は、尾崎行雄氏が大事にした『会合時間の厳守』を周知させるためのものだから、10メートルや15メートルの高さでは話にならない。建築法の制限一杯まで伸ばすべきだ」という主張に基づいて、当時の建築制限の限界の31.5メートル(尺貫法で百一尺)になったそうです。
3つめが、この時計で時を刻んでいる電気時計。この時計は、スイス時計工業会と同時計商工会議所の2つの団体(現在は合併してスイス時計協会)から、日瑞親善の見地から贈呈されたものなのです。
この時計はチャイム付きで1日3回、10時、13時、17時、衆議院の本会議開催時刻、参議院の本会議開催時刻、職員の退庁時刻に合わせて、作曲家でオルガニストの大中寅二(おおなか・とらじ)さんが、作曲した美しいチャイムが流れます。ちなみにこの方は「椰子の実」という童謡の作者で、息子の大中恩(おおなか・めぐみ)さんもやはり作曲家で合唱局のほか、童謡の「犬のおまわりさん」や「どうしておなかがへるのかな」などの作者としても知られています。チャイムの音をYouTubeにアップされている方もいるので、お聴きになりたい方は検索されてみてはいかがでしょう。
左手にかすかに写っているのが国会議事堂。国会前庭は、その右側の永田町1丁目1番地にある。
時計塔があるのは、国会前という交差点から国会議事堂を真正面に見て右側にある「国会前庭」という公園。最寄り駅は東京メトロ・永田町駅・国会議事堂前駅(徒歩約5分)。西洋風の北庭と和風の南庭がありますが、時計塔があるのは洋風の北庭。ここはかつて、加藤清正公の屋敷、江戸時代には井伊大老で有名な井伊家の上屋敷が、そして明治維新以降の1941年(昭和16年)までは陸軍省の陸軍参謀本部があった場所です。またここには桜をはじめとする150種類の様々な植物が植えられていて来園者を楽しませます。なかでも日米親善の証として尾崎行雄が贈った桜の返礼に届けられたハナミズキにちなんで、尾崎行雄記念館建設の際にアメリカから寄贈された約120本のハナミズキが春に開花します。
さらに敷地内には日本の土地の標高を決める基準になっている国土地理院の「日本水準原点」や電子基準点、江戸の名水として知られた井戸「櫻の井」など重要文化財や旧跡などもあります。国会のすぐ近く、東京メトロの駅から少し離れた場所という立地のせいでしょうか。訪れる人も少ないようですが、近くの憲政記念館・代替施設と一緒にぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
国会図書館や国会前庭、時計塔の右に建替え中の憲政記念館の代替施設(左)もすぐ近く。その中にはかつて国会で使われていた親子時計も展示されている。また、駐車場の売店では国会ゆかりのアイテムや、その時の総理名にちなんだ「石破総理まんじゅう」や「石破総理チョコインクッキー」なども販売中。
国会前庭(スポット紹介)|【公式】東京都 千代田区観光協会
https://visit-chiyoda.tokyo/app/spot/detail/308
一般財団法人 尾崎行雄記念財団
https://ozakiyukio.jp
憲政記念館 三権分立の時計(一般財団法人 尾崎行雄記念財団提供) https://youtu.be/XKNpzsGjfxM?si=P4L_O7joK5JVPxCy