もっと知りたい時計の話 Vol.62
さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。
子どものころ、街の中にある「からくり時計」の楽しい仕掛けに見とれてしまった。このコラムをお読みの時計好き、機械好きの方には、そんな経験をお持ちの方がきっといらっしゃると思います。
日本にも世界にも、特に有名な大都市や古い歴史を誇る街には、観光スポットや街の広場などに、昔から大型の「からくり時計」が設置されて、人々の目を楽しませ、街のランドマークとして愛されています。こうした大型のものは時計業界では「設備からくり時計」と呼ばれています。
そのなかでも世界的に有名なもののひとつが、ドイツ・ミュンヘンの中心部、マリエン広場に立つ新市庁舎(ノイエス ラートハウス)に設置されている、ドイツ最大のからくり時計「グロッケンシュピール」でしょう。基本的に毎日11時と12時、加えて夏には17時に、16世紀の人形劇を人と原寸大の人形で再現してくれます。この時間、広場は32体の人形が演じるこの劇を観に来た人で賑わいます。
また時計王国スイスの首都ベルンの旧市街にも、世界最古クラスといわれる設備からくり時計の「ツィットグロッゲ」があります。これは13世紀に建てられた城門だった時計塔に、天文機能と、クマの兵士やにわとり、王様などの人形仕掛けがプラスされたもの。16世紀に追加されたものですが、毎日メンテナンスされ、今もしっかり動いています。
そして日本でもっとも有名なからくり時計といえば、東京メトロ銀座駅、日比谷駅、JR有楽町駅のすぐ近く、東京都千代田区有楽町二丁目5番1号にある、1984年10月6日にオープンした「有楽町マリオン」(正式名称:有楽町センタービル)の、晴海道り(都道304号)側、数寄屋橋側のファサード中央部に設置されている「マリオン クロック」でしょう。なんと今年、誕生から40周年を迎えました。
からくり機構が作動する毎正時前後以外でも、懐中時計をモチーフにした大きなウォールクロックとして人々に親しまれています。
圧縮空気の力で動くこのからくり機構を設計したのは、商業施設、ホテル、企業 PR施設、ワークプレイス、博覧会、博物館など、さまざまな空間の総合プロデュースを行う乃村工藝社。製作を担当したのは当時の服部セイコー(現:セイコータイムクリエーション)。
日本で初めての「大型からくり時計」で、ファンタジックな音楽と仕掛けで大評判になり、当時、銀座の新名所になりました。このからくり時計をきっかけに、全国にからくり時計ブームが起こり、全国各地に趣向を凝らしたさまざまなからくり時計が設置されました。この時計の前は、今も銀座の待ち合わせ場所のひとつとして有名です。
そして40年を経過した今もこの「マリオン クロック」は、朝10時から22時(午後10時)までの毎日12時間、毎正時になるとファンファーレを合図に、懐中時計をモチーフにした直径約2.6メートルの時計の文字盤が上昇、その下から身長約50cmの人形が現れて、金管を叩いて約4分間半、オリジナル曲を演奏。時を告げながら、華やかな動きとメロディで行き交う人々を楽しませてくれます。30周年を迎えた2014年10月には、記念として演奏する音楽を松任谷由実さんの「アニバーサリー」にしての、記念イベントも開かれました。誕生37周年を迎えた2021年10月には、人形がリニューアルされています。
毎正時直前になると、懐中時計型の時計本体が上に移動して、3体の人形が姿を現し、音楽とともにチャイムを叩く演奏パフォーマンスを演じてくれます。クリスマス直前の12月なので、人形はサンタクロースの衣装を着ています。
マリオン クロックで演奏される音楽は、クリスマスやお正月には特別バージョンになります。12月25日まではクリスマスの衣裳とクリスマスの音楽に。そして、12月26日の朝に衣裳を脱ぎ、通常の衣装とお正月の音楽に変更。さらに、1月10日前後の朝に通常の音楽へ変更されます。お正月に銀座、有楽町方面に行かれる方は、お時間が許せばぜひこの時計をご覧になってはいかがでしょうか。
そして40周年を迎えた今年2024年、このマリオンクロックの40年の歩みを振り返った映像と、セイコーが1988年から作り続け、愛されてきた家庭用からくり時計の一部が動態展示されている企画展「セイコーからくり時計の世界Ⅱ」が、昨年末の同企画展の第2弾として、この場所から徒歩5分ほど、銀座・並木通りのセイコー創業の地にある「セイコーミュージアム 銀座」の地下1階展示フロアで、2024年11月19日(火)から2025年1月19日(日)まで開催されています。
左:「セイコーミュージアム 銀座」の公式ウエブ。ここから入館予約が可能です。中央:B1フロアで開催中の企画展「セイコーからくり時計の世界Ⅱ」。右:2021年まで使われていた人形も展示されています。
なお、この「セイコーミュージアム 銀座」のファサード(正面入口)右側にも、全長約5.8m、振り子の長さ4.6mのからくり時計「ロンド・ラ・トゥール」があります。この時計も30分毎にセイコーの創業者一族で、現在セイコーグループ株式会社代表取締役会長兼グループCEO兼グループCCOで、音楽好きで知られる服部真二氏が作曲したオリジナルのメロディが流れ、人形達が歯車を回し、レインボーカラーの光が流れ、昼夜や季節で点灯する光も変わるというファンタジックな逸品です。
この年始、東京の銀座を訪れる機会がある方は、誕生40周年を迎えた「マリオン クロック」と、「セイコーミュージアム 銀座」(web予約優先制・入館無料)を訪れてご覧になってはいかがでしょうか。落ち着いた雰囲気の中で、日時計に始まる時計の歴史から、セイコーの創業から現在までの歴史と製品が一望できるミュージアム展示は、子どもから大人までどんな人にもおすすめ。2024年4月2日には6階フロアにセイコーの最高峰ブランド「グランドセイコー」の歴史と歴代製品を展示した「グランドセイコーミュージアム」が新たにオープンしています。
ただし、ミュージアムをご覧になりたい方は、日程にご注意の上、ぜひwebから入館予約を。マリオン クロックは有楽町マリオンで、朝10時から22時までの間ならいつでも鑑賞できますが、「セイコーミュージアム 銀座」は、年始は1月5日(日)まで休館。2025年1月6日(月)からの開館で、1月6日を除き、毎週月曜日休館です。