もっと知りたい時計の話 Vol.60
さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。
「ノーベル賞」を筆頭に、様々な分野で人類の進化と発展に貢献する画期的な発見や発明、画期的な製品、芸術作品を作り出した人など、この世界には卓越した功績を挙げた人々や団体を表彰するさまざまなアワード(賞)があります。
映画の世界で有名なのが別名「オスカー賞」ともいわれる、1929年に始まったアカデミー賞(Academy Awards)です。アメリカの映画芸術科学アカデミーが主催し、1万500人以上の世界中の映画業界のアーティストやリーダーたちの投票を元に、毎年2月末から3月初めにアメリカ・ロサンゼルスのドルビー・シアターで作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、微実証、撮影賞、脚色賞、音響賞などが表彰されます。
対象になる映画・映像作品は、授賞式前年の1年間にアメリカ国内の特定地域で公開されたもの。また特別賞が、映画産業全般に関連した業績に対して贈られます。
アカデミー賞の公式ウエブページから。このトロフィーが「オスカー像」。そもそもは映画文化の振興を目的にした会員組織。アメリカの映画史に関わるミュージアムやミュージアムショップもある。
そして時計の世界にも、“時計界のアカデミー賞”と言われる、1年間に発表・発売された時計を対象にした唯一無二の世界的な賞があります。2001年に始まった「ジュネーブ・ウォッチ・グランプリ(The Grand Prix d'Horlogerie de Genève)」略称GPHGです。
時計ブランドが応募したモデル。さらに世界中から選ばれた時計業界関係者「GPHGアカデミー会員」が推薦したモデルがノミネートされ、アカデミー会員の投票結果を元に、世界的な時計ジャーナリストで作家、GPHG財団のプレジデントを務めるニック・フークス氏に加え、フィリップ・デュフォー氏やポール・ペイジ氏のような過去にこの賞を受賞した時計師や、名門時計ブランドのCEO、世界的な時計販売店のトップマネジメント、世界的な時計コレクター、ジャーナリストなど29人の財団メンバー、つまり30人が最終的に受賞作を決定。最高賞である「金の針賞」を筆頭にさまざまなジャンルの時計が表彰されます。
今年2024年は去る11月14日に表彰式が行われ、全部で20ジャンルの20本の時計に、また、時計製造界の重要な人物または機関を表彰する審査員特別賞がお一人に授与されました。
どんな賞があるのか、賞の名前だけでも一応ご紹介しておきましょう。
最高位 金の針賞(AIGUILLE D’OR Grand Prix)
メンズウォッチ賞
メンズ コンプリケーション ウォッチ賞
レディースウォッチ賞
レディース コンプリケーション ウォッチ賞
タイムオンリー部門賞
アイコニック ウォッチ賞
トゥールビヨン賞
カレンダー&アストロノミー ウォッチ賞
メカニカル エクセプション賞
クロノグラフ賞
スポーツウォッチ賞
ジュエリーウォッチ賞
アーティスティック クラフツ ウォッチ賞
Artistic Crafts Watch 賞
小さな針賞 チャレンジ ウォッチ賞
エコ イノベーション賞
オーダシティ(常識を超えた画期的な)賞
オロロジカル レボリューション賞
(革命的な技術開発)賞
クロノメトリー賞
2022年度のクロノメトリー賞はグランドセイコーの「KODO(鼓動)コンスタンスフォース トゥールビヨン」が受賞。セイコーは過去に「小さな針賞」も受賞しています。
今年の最高賞「金の針賞」に輝いたのは、IWC(インターナショナルウォッチカンパニー)の「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」。私たちが現在使っている暦、グレゴリオ暦には「4年ごとに1回、うるう年を設ける」というルールがあり、これはみなさんもご存知のように「4年に1回は2月を28日ではなくて29日にする」というものです。
しかし、実はグレゴリオ暦にはさらにひとつ、400年ごとの特別ルールがあります。「100で割り切れる年は平年、400で割り切れる年はうるう年とする」というルールです。これは、400年単位で考えると「4年に1回はうるう年」だと、1日増やし過ぎになってしまいます。大賞に輝いたモデルは、パーペチュアル(永久)カレンダー機構にわずか8個のパーツを追加することで、このルールに対応。このスマートなメカニズムが審査員から評価されました。
審査員特別賞は、スイス時計界で伝説的な時計ケースメーカー(ケース製造職人)のジャン=ピエール・ハグマンさん。とても気さくでいつも笑顔なのが印象的。パテック フィリップの「スターキャリバー」のケースなど、超一流ブランドの傑作モデルのケース製作を担当し、83歳の今も活躍を続けています。
また今年のGPHGでは「マイクロメゾン」と呼ばれる、以前このコラムでご紹介した独立時計師とはまた違う、新たな時計ブランドの活躍が目立ちました。年間の生産本数が数十本程度と小規模ながら、時計愛好家を唸らせる独創的な技術とデザインの時計を作り、いまの時計業界をリードする小規模ブランドの作品が数多く受賞しました。今年は日本の「マイクロメゾン」が3000スイスフラン(約52万円前後)以下の時計に贈られる「チャレンジ ウォッチ賞」を初受賞して時計愛好家の間では大きな話題になっています。英語かフランス語のページですが、時計が大好きという方は、ぜひご覧になってください。