もっと知りたい時計の話 Vol.58

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

今回は前回に引き続き、単細胞生物のバクテリアから動植物まで、あらゆる生物が持っている「体内時計」のお話。それも私たち人間の体内時計の研究に基づいて、「どうすればより健康でいられるか」という話です。

動植物には、体内時計に基づいた約24時間周期の「日周リズム」、英語では「サーカディアン リズム(circadian rhythm)」と呼ばれるものがあって、生物はこれに基づいて行動していること。ただ日周リズムは別名「概日リズム」で、「概」という字が示すように、24時間ピッタリではなく、動物の場合は約25時間、人間の場合は平均で約24時間10分と、24時間より少し長い。前回はこのことを紹介しました。

この「日周リズム」のおかげで、私たち人間は朝になると起床して、夜になると就寝するという生活をし、健康的な生活を自然に維持できているのです。ではこのリズムは、実際にどのような仕組みで生まれているのでしょうか。なぜ私たちは、朝になると目が覚めて起きることができて、夜遅くになると眠くなって眠れるのでしょうか。

この「朝の覚醒と夜の催眠」は、脳の松果体から出るメラトニンと、副腎から出るコルチゾール、ふたつの臓器から分泌されるふたつのホルモンの量が変化することで起きることがわかっています。

厚生労働省の「生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット」の「健康用語辞典」によると、血液中の濃度が高くなると眠気を促す作用をもたらすメラトニン(Melatonin, N-acetyl-5-methoxytryptamine)は、必須アミノ酸のトリプトファンを原料として脳内の松果体で産生されるホルモンです。私たちの身体は、体内時計と外界の光に基づいて、このメラトニンを作る量を調節している、と書かれています。

なおメラトニンは、日本では副作用を考慮して、購入には医師の処方箋が必要な「医薬品」になっています。ですから、必ず医師の診察を受けて使いましょう。



e-ヘルスネットは、健康のためのさまざまなアドバイスがたくさん。「快眠のためのテクニック」という、寝具の選び方をアドバイスしてくれるページもあります。

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-003.html

このメラトニンの血液中の濃度は、昼間には低くて夜になると高くなります。具体的には昼間はずっと低いのですが、夜の21時ごろから急速に増加して、深夜の3時ごろにピークを迎え、朝の6時ごろに向かって一気に減少します。

いっぽう、ストレスホルモンともいわれ、分泌されることで血糖値を上げたり血圧を上昇させたり、タンパク質や脂肪の代謝を促すなど、さまざまな作用を持つコルチゾールの血液中の濃度はメラトニンとは対照的に、朝の6時ごろにいちばん高くなって、深夜の23時から0時ごろに最低になっています。

そして体温(深部体温=身体の奥の体温)も、朝の6時に36℃台だったものが起床して活動を始めるとともに徐々に上がって夕方の18時ごろに37度弱にまで上がって、それから下がりはじめ、深夜の3時ごろにはいちばん低くなる。このサイクルを繰り返しています。

体内時計は、こうしたホルモンの分泌や体温のコントロールに深く関与していて、そのおかげで私たちは「朝になると起きて夜になると眠る」という、約24時間の日周リズムに基づいた、健康的な生活ができているのです。

ただ、前述にありましたように、私たちの日周リズムは24時間より10分ほど長いことがわかっています。また、日周リズムには個人差もあって、最大ではその差は約20分にもなるそうです。

私たちがもしこの体内時計に基づく日周リズムだけに基づいて生活しているなら、毎日約10分ずつ生活時間が後ろにズレていくことになります。つまり6日間では約1時間もズレるはずです。でも多くの方は、毎朝ほぼピッタリ同じ時刻に目が覚めますよね。なぜそんなことができるのでしょうか。

その秘密は、メラトニンのところでも触れた、メラトニンを作る量にも影響する「外界の光」にあります。実は人間の生体時計は「光の刺激」で進んだり遅れたりするのです。朝6時ごろから夕方15時ごろまでの光は、生体時計を進める方向に。逆に夕方15時ごろ以降、深夜を経て朝6時ごろまでの光は、生体時計を遅らせる方向に働くのだそうです。

この光の刺激で私たちの体内時計の「時刻」は修正されています。ですから前の日に寝るのがとても遅くなっても、部屋に差し込む朝の光で私たちの体内時計がリセットされて、私たちは朝、いつもと同じ時刻に目覚めることができるのです。そのため、朝は必ず朝日を浴びることや、朝の散歩が推奨されているのはそのためです。そして東京都小平市にある国立研究開発法人・精神・神経医療研究センターでは、強い光を使って、睡眠障害など日周リズムが乱れている病気を治療する研究も行われています。


自然に日周リズムを整えるには、朝の光が差し込む部屋で眠ることだと、睡眠の専門家はアドバイスしています。

皆さんも健康のために、日周リズムを意識して生活してみてはどうでしょうか。具体的には、できるだけ朝の光が差し込むところで眠るようにする。ご飯を食べると胃や肝臓が働いて生体時計を「進める」効果があるので、朝食をかならず食べる。夜22時以降の食事を避ける。これだけでも、あなたの生体時計、日周リズムは改善されるそうですよ。