もっと知りたい時計の話 Vol.55

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

みなさんは電話の時報サービス「117番」を知っていますか? また、使ったことがありますか? 電話で117番をダイヤルすると「午前(午後)○時〇〇分〇〇秒をお知らせします」という、爽やかな女性の声と「ピッ・ピッ・ピッ」というカウントダウンの音、そして「ポーン」という音で、10秒刻みで現在時刻を教えてくれる、“声の時計”ともいえるサービスが流れます。

これは1955年から始まった、電電公社(現在のNTTグループ)の電話による「3桁番号サービス」と呼ばれる情報提供サービス。同じ年の1月1日から始まった177番の「天気予報サービス」に続く第2号で、1955年6月10日(時の記念日)から始まりました。まず東京でスタートし、1964年3月からは電話番号が「117」に統一されて全国どこでも使えるようになりました。すでに69年も続いています。

実はそれ以前から電話局には「今の時刻」を尋ねる電話が掛かってきていて、電話交換手が1件ずつ対応していたそうです。今考えても、とても大変な手間ですよね。そこでこのサービスを自動化することにしたのです。

でも、もしあなたが生まれたときから携帯電話があった、1980年代以降に生まれた世代なら使ったことはないでしょうし、その存在自体、ご存知ないでしょう。なぜなら、わざわざ電話を掛けて音声を聴かなくても、携帯電話の液晶ディスプレイを見れば現在時刻は一目瞭然なので。

携帯電話が1994年に買い切り制になって、お金を払えばだれでも持てる、しかも「片手で使える」サイズの通信機器になったときから、腕時計は「時を知る道具」の主役ではなくなりました。当時のメディアは「腕時計はオワコン(=終わったコンテンツ)だ。もう要らない」と書き立てたものです。

さて、日本標準時(JST)を送信する国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が運用する標準電波JJYにちなんで、別名「テレホンJJY」という名前もあるこの時報サービスは、個人にとっても社会にとっても、安全&安心な社会生活に絶対に欠かせない重要なインフラストラクチャー(インフラ)でした。


時報サービスの元になる正確な時刻情報を提供している「国立研究開発法人 情報通信研究機構(略称NICT)。東京都小金井市貫井北町4丁目2-1にあり、ディスプレイには日本標準時(JST)が常時表示されています。無料の見学コースも。https://www.nict.go.jp/

個人の腕時計の時刻合わせに使われていたのはもちろんのこと、鉄道やバスなどの交通機関の安全で時刻通りの運行や会社や学校などの公共時計の時刻合わせにも、このテレホンサービスは使われてきました。当時も今も社会を安全に、安心に運用するためには「正確な時間」が絶対に必要です。これは、社会のために不可欠な社会サービスだったのです。

しかし1980年代に入ると、技術の進化で状況は大きく変わりました。時計自身が日本標準時の情報を送信する標準電波JJYを受信して自動的に時刻を修正する電波時計の登場。さらに世界中のあらゆるコンピュータがつながるインターネット時代の到来で、この音声サービスに代わって、日本標準時や協定世界時とリンクしたインターネットのタイムサーバーが、正確な時刻情報を配信するようになります。

こうした機器やインフラの登場。さらに固定電話(アナログ電話回線)の契約者の激減で、2023年末でアナログ電話回線は廃止され、2024年1月1日から電話の通話サービスは光ファイバーのデータ回線を使ったIP(インターネットプロトコル)電話サービスに切り替わりました。そして、時報サービスもアナログ電話回線ではなく、光ファイバーのデータ回線を使った「光テレホンJJY」に切り替わりました。でも「声で時刻を教えてくれる」内容は変わっていません。3桁番号サービスには「177」の天気予報や「104」の番号案内のようにサービスが終了する予定のものもありますが、「117」は今後も継続します。


NTT東日本の3桁番号サービスの案内ページ
https://web116.jp/phone/telephone/

このサービス、家の電話ばかりでなく、スマートフォンなどの携帯電話からでも、「117」とダイヤルするだけで聴くことができます。料金は3分ごとに8.8円。声の主は伝説のナレーター・中村啓子さん(エクセレナ所属)です。

この「117の時報」をまだ一度も聴いたことがないという方は、ぜひ聴いてみてはどうでしょう。時刻を声で聴くというのは、なかなかに新鮮な体験ですから。