もっと知りたい時計の話 Vol.43

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

砂時計は一般的に、3分間から5分間くらいの、ごく短い経過時間を測るもの。家庭ではキッチンタイマーとしてお使いの方が多いのではないでしょうか。また、デザインが多彩なのでインテリアとして楽しんでいる方もいらっしゃると思います。でも砂時計が「人類の歴史に大きく貢献した時計」であることをご存知でしょうか? 今回その、あまり知られていない意外な歴史と魅力のお話です。

砂時計は日時計や水時計と並んで古代から使われてきたもっとも構造が簡単な時計です。英語で「Hourglass(アワーグラス=時の経過を示すガラス)」と呼ぶように、ふたつの「Bulb(バルブ=ガラス玉)」を細い管でつないで、玉の中に砂などの粒子状の物質を詰めれば出来上がり。基本的にふたつの玉は同じカタチ、おなじサイズのもので、上下反転させればふたたび計測することができるようになっています。

そして、ガラス玉の大きさとその中に入れる粒子状物質の量と粒の大きさ、ふたつの玉をつなぐ管の口径を変えることで、測れる時間の長さを変えることができます。「砂」に代表される粒子状の物質には、天然の砂、砂の主要な成分でありガラスの原料でもある珪砂、砂鉄、細かく砕いたシリカゲル、ガラスビーズなどが使われます。

その砂時計は、実はだれがいつどこで発明したのか、起源が不明な時計なのです。ただ、紀元前16世紀にはバビロニアとエジプトの文献でその存在が確認されていますし、砂時計のモチーフは「止まることなく過ぎていく時間」の象徴として、昔からさまざまな記念碑や墓石などに刻まれてきました。しかし、砂時計が「経過時間を測る道具」として活躍するのはそれよりずっと後、14世紀になってからです。

では砂時計はどんなところで、どのように「人類の歴史に貢献した」のでしょうか。それはなんと船の上。14世紀から19世紀半ばまでの500年あまり、船の速度と位置を割り出すために、つまり航海には欠かせない道具として使われていたのです。砂時計は他の時計と比べて揺れや温度などの環境の変化に強いため、船の上でもいつでも使うことができました。

船の速度を計測する際は28秒、あるいは30秒を測ることのできる砂時計と、チップログという道具が使われました。チップログというのは縄を巻いたリールとそこの縄の先端に取り付けた木製の三角形のパネルで構成されていて、パネルは水面に対して垂直になるように重りが取り付けられています。そして巻かれた縄には、47フィート3インチ(14.4018m)ごとに結び目(Knot=ノット)が作ってあります。


19世紀末まで船乗りたちが使っていた「チップログ」。(Lokilech, CC BY-SA 3.0, ウィキメディア・コモンズ経由から)

測るときはひとりが、船の上から三角形のパネルを海の上に投げて、結び目を数えながら縄を繰り出していきます。そしてもうひとりが砂時計で28秒(ないし30秒)を測っていて、砂が落ちきったら縄を繰り出している人に声を掛けます。このとき、繰り出した結び目の数で速度がわかるのです。この方法は19世紀末、マリンクロノメーターが開発・普及して緯度経度が正確にわかるようになるまで使われていました。

結び目がひとつなら速度は1海里(=1ノット)。1海里は時速に換算すると時速1.85166キロメートル。GPS(グローバル・ポジショニング・システム)を使えば自分が地球のどこにいるのかが数メートルの精度でわかる現在では信じられない話ですが、この速度と天体の位置を元に、船乗りたちは可能な限り、自分たちの位置を何とか把握しようとしていたのです。

15世紀に活躍したコロンブスやマゼランも、多数の砂時計を携えて大洋を超える大航海に乗り出して新大陸を、世界を「発見」しました。砂時計がなければ大航海時代の航海、彼らの冒険はさらに困難なものになったことでしょう。機械式時計が産業革命を支えて「世界を変えた時計」だったのと同様に、砂時計も大航海時代を支えて「世界を変えた時計」だったのです。

ところで、日本には1年間を測ることのできる「世界最大の砂時計」があることをご存知でしょうか。鳥取砂丘で有名な島根県の大田市仁摩町の「砂博物館 仁摩サンドミュージアム」の“一年計砂時計”『砂暦(すなごよみ)』です。


仁摩サンドミュージアムの一年計砂時計『砂暦』。同博物館の「タイムホール」の天井、地上8mに設置されています。

全長5.2m、直径1mの大きな容器の中には1トンの砂が入っていて、直径わずか0.84㎜のノズルから1秒間に0.032グラム、1時間に114グラム、1日で2740グラムの砂が落ちて時を刻んでいます。毎年大晦日の12月31日深夜23時55分からは「時の祭典」と題し、抽選で選ばれた参加者が紅白の綱を引いて砂時計を回転させるイベントが行われています。ご興味のある方はこのミュージアムに足を運んで、時を刻むその姿をご覧になってはいかがでしょうか。